Cing
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ゃないということを、覚えておいて」
その言葉が終わらないうちに腕をとられて、腰に手が回る。軽々わたしはルパンに抱えあげられた。
「降ろして」
「任務とか、そんなこと考えなくていいんだ。ナリョーシャ。子供は、子供らしく、かわいいおもちゃに喜んで、美味しいごはんを楽しみにしていればいい」
は!とわたしは嗤った。
「こんなところでずっと生きてきたわたしにそれを言うの?」
「どんなところでも、自分を見失わなければ生きていける。ナリョーシャ。例えフランスの、自由がない研究所の中でも」
「わたしはドイツ人よ!」
堪らず私は叫んだ。
「ナリョーシャ!」
わたしの口をルパンの手が覆うと同時に、鋭くルパンが遮った。
「きみはフランス人だ」
ちがう!
私はその手に思い切り噛みつく。いっそ噛み切ってやる勢いで。ごり、と歯がルパンの手の筋にあたる。骨かもしれない。どっちでもいい、わたしの気持ちはこんなものじゃおさまらない。
ルパンは顔色一つ変えずに私に顔を寄せた。
「ナリョーシャ。何度も言うようだが、きみのことをドイツ人だと知っているものはこの研究所でも少ない。迂闊なことは言うんじゃない。いいな」
わたしは噛みついたまま獣のように唸った。
ルパンは私が噛みついている反対の手で、優しく私の髪を撫でた。
「今のは私が悪かった。きみに残酷なことを言った。許してほしい」
わたしは返事のかわりに足でルパンを思いっきり蹴った。
当然痛いだろうに、それでもやはりルパンは顔に出さない。
気にくわない。顔を顰めて痛がる様を見れたら、少しは溜飲も下がるのに。
わたしは、謝ってほしいなんて思っていない。そんなものいらない。
欲しいのはそんな上辺だけの謝罪や、同情なんかじゃない。
この男は、今わたしをドイツに帰そうとすればきっとできる。それだけの力がある。でも、しない。
結局上に逆らうことはできないのに、口先だけで甘いことを言うのなんて、わたしをあからさまに嫌ってる研究員より性質が悪い。
わたしがドイツに帰る一番の近道は、笑顔を振りまいてこの男を誑かすことかもしれない。けれど、本当の意味で誑かす事などできないのだろう。悔しいが、今の私よりもこの男の方が一枚上手なのだ。
「ナリョーシャ、機嫌をなおして。きみに嫌われると、私は辛い」
わたしは両手でルパンを突き飛ばした。ルパンは心得たようにわたしから一歩さがる。
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