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『彼』とあたしとあなたと

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あたしもういくつになったんだっけ?」



「17だろ」



 こともなげに『彼』は言う。



「じゅう…なな…17かぁ…」



 月日は無慈悲だ。一瞬の合間に過ぎていく。その一瞬で日紅や、犀や、ヒトが感じたものなど一瞥(いちべつ)もしない。ただ流れてゆく。



「嫌だなぁ…」



 日紅はクッションに顔をうずめた。



 変わってゆくのは、怖い。



「ずっと、ずっと、今のままがいいのに。もしかしたら、明日、あたしが事故で死ぬかもしれない。犀が、何かの事件に巻き込まれて殺されちゃうかもしれない。そうしたらもう、変わってしまうでしょ?あたしを取り巻く何もかもが。大人になんかなりたくない。ずっとこのままで、いたい…」



 犀も変わる。背が、伸びた。200とまでは行かないけれど、183もある。人当たりもよく、仲のいい友達もたくさんいる。日紅のことなんか、今日明日に忘れてしまっても不思議はない。



 実際に、明日犀が日紅を忘れるなんてないことは日紅にもわかっている。でも、「絶対」なんて誰が言い切れるというのだろう。明日の保証を誰がしてくれるというのか。未来を知る術はないというのに。



 怖い。



 『彼』は、戸惑ったように日紅を見ていたが、躊躇(ためら)いがちに手を伸ばすと、震える日紅のその肩にそっと手を置いた。



 ゆっくり、不器用な手つきで日紅の頭を撫でもしてくれる。



「もう、寝ろ」



 まだ闇も浅く、寝るには少し早い時間だったが、日紅はその声につられたように、じきに寝息を立て始めた。
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