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冥王来訪 補遺集
第二部 1978年
原作キャラクター編
追憶 ユルゲンとソ連留学の日々
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ени《アソバーヤ・アッジェレニエ》といい、軍や警察などの実力組織の内部にあるKGB本部直属の監視ネットワークである。
KGBは、国内の実力組織を、秘密裏に監視するために工作員を多数送り込んでいた。
 KGB長官は、西日の差す執務室を歩きながら、
「ふうむ」と嘆息を漏らした。
灰色の夏季用将官勤務服(キーチェリ)を着た彼は、
「シュタージも手を余すほどの男、シュトラハヴィッツか」
そう告げると、キャメルの箱を縦に振って、飛び出した煙草を口に咥える。
 特別部部長は、KGB長官の機嫌を取る様にして、ガスライターを差し出し、煙草に火を点ける。
紫煙を燻らせた後、青白い面色して、(まなじり)をつりあげ、
「で、どうするのかね」と詰問する。

特別部部長は、彼の激色がうすらぐのを待って静かにいった。
「もはやシュミットのいないシュタージなぞ、具の挟んでいないサンドイッチの様な物です。
シュトラハヴィッツは手強(てごわ)く、後ろには我が赤軍とGRUが構えています。
容易に手出しは出来ますまい。故に、奴の腹心、ベルンハルトを篭絡することに致しました」
「それで」
「旧知の仲にある人物を使者に仕立てておきました」
「どんな人物だね」
「クビンカ基地で東欧からの留学生相手の教官をしておりました」
「名前は」
「名前はエフゲニー・ゲルツィンと申します。年の頃は35歳です」
「信用できるのかね」
「御心配には及びません。わが特別部所属の名うて工作員です。外に待たせて居ります」
「よし、呼んで来たまえ」
戻って来た特別部部長の後ろには、実に見上げるばかりの偉丈夫(いじょうふ)が居た。
 筋骨(きんこつ)隆々(りゅうりゅう)、意志の強さがみなぎっている精悍(せいかん)な顔つき。
頭髪は豊かな黒髪で、澄んだ緑色の瞳には男の誠実さが伺えた。
エフゲニー・ゲルツィンは軍服の胸をはり、自分を見つめるKGB長官の眼を、しっかりと見返していた。
『私には自信が有る』
カルムイク自治共和国出身で、熱心なラマ教の檀家(だんか)であった。
カシュガルハイヴ調査の際は、ハイヴ間近まで接近して生き残った数少ない人物。
対BETA戦で、あらゆる艱難辛苦(かんなんしんく)に打ち勝つよう鍛え上げられたのである。
『ぜひ私を東ドイツに派遣してください』
 そのゲルツィンの意思が通じたのか、長官は大きく頷くと、
「では特別部部長、書類を作れ」といい、部長を机に座らせた。
そして低い声で、東ドイツへの秘密指令を書きとらせた。
書類が出来上がると、KGB長官は花押を書き添え、極秘の印を押した。
長官は、封に入れた密書(みっしょ)を持って、ゲルツィンの前に歩み出る。
「良いか、これをドイツ駐留軍内部にあるKGB支部に見せ、
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