第三章
[8]前話
「見事です」
「田沼様もな」
「その花魁を側室に出来ます」
「そうであるな」
「ですから」
源内は典医にさらに言った。
「ここはです」
「わしがその花魁を養子にしてか」
「田沼様に申し出られては」
「そして田沼様と絆をもうけ」
「恩も売られて」
「蘭学もであるな」
典医は自分から言った。
「学べばよいな」
「そうですな」
「うむ、ではな」
「その様にされますな」
「そうしよう」
源内の言葉に頷いてだった。
典医はその花魁を養子にし武士の家の娘としたうえで典医が田沼に話した。すると田沼もそれはという顔になって言った。
「ではな」
「側室にですな」
「貰い受けてよいか」
「どうぞ」
これが典医の返事だった。
「その様に」
「それではな」
田沼も頷いた、そうしてだった。
花魁を側室に迎えた、彼は望みを果たすことが出来て。
「わしもじゃ」
「田沼様と縁が出来て」
「そして蘭学もな」
典医は源内に自分の屋敷で話した。
「書を貸して頂けることになった」
「それはよおございましたな」
「お主も蘭学は詳しいが」
「それがしから聞くよりも」
「やはり自分でな」
自らというのだ。
「学ぶ方がな」
「よいですな」
「うむ、この度はそなたの知恵で」
源内のそれでというのだ。
「見事な」
「田沼様もご典医殿もですな」
「うむ」
まさにというのだ。
「よいことになった」
「それがしも田沼様と縁が出来ましたし」
「皆よいことになったな」
「左様ですな」
「そうであるな」
「いや、それは何より」
源内は笑って応えた。
「ではこれからも何かあれば」
「知恵を出すか」
「そうさせて頂きます」
源内も笑って応えた、そうしてだった。
彼は典医と彼の屋敷で楽しく飲んだ、お礼の宴の酒を楽しみその後で。
鰻屋に夏客足がないと言われてだ、笑って言った。
「じゃあ土用丑の日に売るか」
「鰻をですか」
「ああ、その日に鰻を食べるといいってな」
笑って言うのだった、そしてまた知恵を出したがこれはまた別の話である。平賀源内は江戸で何かと知恵を出して働いていた。その彼にはこうした話も残っているので紹介させてもらった。一人でも多くの人が読んで頂ければ幸いである。
側室 完
2023・7・14
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