第一章
[2]次話
側室
今幕府で将軍の側近として身を立てている田沼意次はとある花魁のところによく通っていた、それでだった。
その花魁を自分の側室にしようと考えたが。
「わしは元々大した身分ではなかった」
「田沼家はですか」
「そのことを言われますか」
「そなた達も元は百姓だったりした」
田沼はその細面で皺の多い顔で自身の藩邸で傍の者達に言った。
「よいと思ったら身分にはこだわらぬが」
「それで、ですか」
「殿としてはですか」
「花魁でもな」
その身分でもというのだ。
「側室にしたいが」
「その人は、ですか」
「武士の身分ではない」
「そうなのですね」
「だからですね」
「側室に迎えられぬ」
身分が違っていてというのだ。
「それは無理だ、しかしな」
「それでもですね」
「殿としては」
「うむ、どうしてもな」
こう側近達に言うのだった。
「側室にしたい」
「そうですか、だからですか」
「殿としては悩んでおられますか」
「このことについてな」
田沼は難しい顔で言った、そんな中でだった。
たまたま江戸で歯磨きの粉の宣伝や歌舞伎の脚本を書いたり様々なことをして暮らしていた平賀源内がだった。
吉原でその花魁と遊んだが床で彼女に言われたのだった。洒落た髷で細面で飄々とした雰囲気の細い目の男である。
「へえ、田沼様があんたをか」
「そうでありんす」
花魁は座って髪の毛や服を整えつつ答えた。
「あちきを側室にと」
「言われてるんだな」
「けれどあちきは侍の家の出じゃないでありんす」
花魁は残念そうに述べた。
「それで田沼様には」
「いや、ちょっとな」
ここでだ、源内は閃いた顔になって言った。
「やり方があるぜ」
「そうなのですか」
「何でもやり方ってあるんだよ」
源内は床の中でうつ伏せになって肘をついて煙管を吸いつつ話した。
「それでだよ」
「あちきのことでもありんすか」
「ああ、ちょっとおいらに任せてくれるか」
源内は義侠心も出して言った。
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