第三章
[8]前話
「そやけどな」
「それでもやな」
「ああ、やっぱりこっちもな」
「全力で向かうな」
「そうするわ、勝負はわし等の世界の常でな」
それでというのだ。
「盗塁についてもや」
「同じやな」
「走るで。勿論啓ちゃんが投げてる時もな」
福本は鈴木に顔を向けて飲みつつ話した。
「走るで」
「走らせんで、こっちも」
「啓ちゃんとも勝負やな」
「そやな」
こうした話もしてだった。
福本も全力で走った、このシーズンのパリーグの盗塁王対決はこれまで通り福本が獲得するかはたまた若い大石が獲得するかという話になったが。
大石は福本以上に走った、そして。
盗塁王は彼のものとなった、だがここで大石は親しい者に言った。
「これからも福本さんみたいにな」
「走るか」
「そうするよ、福本さんから盗塁王を奪えたけれど」
それでもというのだ。
「まだまだだよ」
「福本さんは凄いか」
「ああ、遥か上にいる」
そうしたというのだ。
「凄い人だよ」
「盗塁王はお前になってもか」
「まだな」
それでもというのだ。
「あの人は僕にとってそうだよ」
「尊敬して目指す人か」
「ずっと、だから来年もそれからも」
「走るんだな」
「盗塁はしていく、そしてバッティングも守備も」
そちらもというのだ。
「頑張るよ」
「福本さんみたいにか」
「守備位置は違うよ」
大石は二塁手で福本は外野手で主にセンターを守っている、左投左打の福本は俊足と打球反応のよさから外野になったが利き腕からもそうなったのだ。
「それでもあの人はそちらも凄いから」
「バッティングも守備も」
「そっちも頑張るよ、これからも」
「福本さんみたいにか」
「あの人から盗塁王を奪ってもな」
それで終わらずとだ、こう言ってだった。
大石はそれからも活躍した、そして翌年オールスターでそれまで福本の定位置だったパリーグの一番打者となり。
パリーグを代表する盗塁の名手そして強力な一番セカンドとして知られた。彼は自身が尊敬する福本に負けないだけの選手になったのだった。パリーグの逸話の一つである。
尊敬するからこそ 完
2023・6・12
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