第二章
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「身体動かして飯食ってるだけあってな」
「殴られると痛いですね」
「それも想いきりで何発もだからな」
「もう立場や階級がちょっと下ならですよ」
川上から見てというのだ。
「あの人は容赦なくです」
「きつくあたるな」
丹波も身を以てわかった。
「殴ってもきてな」
「軍隊じゃ殴るのは普通ですけれどね」
「あの人は特に凄いな、けれどな」
「それでもですか」
「軍隊にいる間だけだ、我慢するさ」
笑って言ってだった。
実際に丹波は我慢した、結局彼が所属していた部隊は内地に留まりそのまま終戦を迎えた。そうしてだった。
丹波は軍から復員することになったがここで部下に言った。
「じゃあ達者でな」
「はい、丹波さんも」
「お互いな。生き残ったんだ」
戦争からというのだ。
「達者で暮らそうな」
「そうですね、ただ俺達だけじゃなくて」
「川上さんもだな」
「生き残りましたね」
「結局俺達の部隊は戦場に出なかったからな」
それならというのだ。
「もうな」
「あの人が生き残るのも当然ですね」
「大勢の人が死んでな」
丹波はここで遠い目になって述べた。
「職業野球の人もな」
「大勢亡くなっていますね」
「何でも巨人だと沢村さんや吉原さんが亡くなってるな」
「吉原さんって中学の時から川上さんと一緒で」
「投手と捕手だったな」
「物凄い捕手だったそうですが」
それでもというのだ。
「戦死したんですね」
「他の球団の選手も結構みたいだな」
「それで俺達は生き残ったんですね」
「そうだな、じゃあこれからはな」
「はい、お互いに」
「達者でな」
部下だった彼に闊達に笑って告げてだった。
丹波は復員した、そうして彼の人生を歩みだしていたがその中でふと家の者に客が来たと言われた。
「お客さん?誰だい?」
「川上さんとのことです」
「川上さん!?まさか」
丹波はその名前を聞いてまさかと思った、それで自分から会うと言ってその客を通させた。そして来たのは。
川上哲治だった、彼は丹波の前に出るといきなり平謝りになった、そのうえで軍隊でのことを話して叩頭しつつ言うのだった。
「あの時はああするしかなかったんだ」
「軍隊にいて戦争をしていたからですか」
「ああ、君には済まないことをした」
謝りつつ言うのだった。
「どうか許してくれないか」
「過ぎたことですし実際そんな状況でしたからね」
戦争中で軍隊にいたからだとだ、丹波は家の居間の中で上座に座って答えた。
「仕方ないです」
「そう言ってくれるかい」
「はい、気にしないで下さい」
「それは何よりだ、もうあんなことは君には二度としないよ」
こう言って去っていった、そして後日。
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