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山姥退治
第三章

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「都では魚を生で食さぬが」
「海辺では食べますね」
「しかし海の魚はな」
「虫がいることは少ないですが」
「そうであるな」
「しかし川魚はです」 
 こちらの魚はというのだ。
「随分と多いので」
「賢い者は焼いたり煮て食べるな」
「鯉にしてもそうですね」
「うむ、余も食することがあるが」 
 鯉をとだ、義満は答えた。
「厨房の者達は常にな」
「よく火を通していますね」
「焼いたり煮てな」
「それはまさに虫を殺してです」
「身体の中に入らぬ様にしておるな」
「ですから生で食べますと」
 川魚をというのだ。
「非常に危ういのです」
「虫が身体の中に入りな」
「その虫に殺されるのです」
「それは山姥も同じか」
「例え毒を見破る山姥もです」
 魚の中に毒を入れたりしたものや毒のある魚は食べないがというのだ。
「虫がいるかどうかはです」
「見破れぬか」
「そしてあの山姥は海魚ばかり食べていましたね」
 一休はこのことも話した。
「敦賀から都に運ばれる魚を狙っていたので」
「それを運ぶ牛や人も食ってな」
「なら川魚のことは知りませんね」
「海魚ばかり食っておるとな」
「それで、です」
 そうしたことも考えてというのだ。
「私としてはです」
「川魚を出したのじゃな」
「左様です」
「成程のう。この度もそなたの知恵が働いたか」
 義満は唸って言った。
「流石である、褒美を取らすぞ」
「褒美はいりませんが」
「そうか、いつもであるな」
「はい、それと将軍様」
 一休は義満ににこりと笑って言った。
「先日私に謎々を出されましたが」
「どうじゃ、解けぬであろう」
 義満はにやりと笑って応えた。
「あの謎々は」
「大きな長い鼻を持つ四本足の巨大な生きものですね」
「これは何じゃ」
「象ですね、天竺にいる」
 一休はにこりと笑ったまま答えた。
「左様ですね」
「何っ、わかるのか」
「はい、明の書に出ていました」
「知っておったか、また余の負けか」
 義満は自分の座で地団駄を踏む様にして悔しがった。
「全く以て不愉快じゃ、しかしこれで終わりではないぞ」
「それではですね」
「また何かしてやるからな、今度は負けぬぞ」
「将軍様、いささか大人気ないかと」
「五月蠅い五月蠅い、余も引き下がれるか」 
 義満は悔しがりながら言葉を返した、そうしてだった。
 山姥がいなくなったことを喜びつつもまた一休に勝負を挑んだ、そしてまた負けてこれ以上はないまでに悔しがったのだった。


山姥退治   完


                     2023・7・14
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