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冥王来訪
第三部 1979年
孤独な戦い
威力偵察 その3
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かで美しい。
半面、貧民窟は、カザフスタンで見たソ連市民の住宅よりひどい有様であった。
 Rの音の強い英語を話す、(ナツメ)の様に肌の浅黒い人々。
住民の発音から、ヤウクは、インドか、パキスタンからの移民であることを理解した。 
 当時の英国は、労働力不足から大量の移民を受け入れていた。
その多くは、旧植民地からの出稼ぎで、黒人やインド人などの有色人種であった。
「ドイツも東西統一がなれば、東側から富を求めて押し寄せるだろう」
 バルクは、タバコを燻らせながら、ヤウクに語りかけた。
脇にいるヤウクも、彼に分けてもらったステートエクスプレス555を吹かしていた。 
(ステートエクスプレス555は、箱入りの高級タバコで、金正日の愛用品だった)
「ドイツの富は食い荒らされて、やせ細る。
いずれこの光景は、ドイツ全土に広がる……」
 ロシア系なのに酒があまり得意ではないヤウクにとって、タバコは非常に重要な娯楽品であった。
ソ連留学時は、マホルカや高級煙草の「白海運河(ベルモルカナール)」、口付き(パピロス)「カズベック」、何でも吸った。
酸っぱい煙草も苦い煙草も吸ってきた。
 バルクから貰ったタバコは、癖がなくて上品な味わいだが、物足りなく感じてしまう。 
そんな事を考えながら、バルクの話を聞き流していた。
「そこで政府にいる年寄りどもが考えたのが、共存共栄路線だ」
ヤウクは、バルクのその言葉に(ばつ)を合わせる。
「ご老人は、どこでも同じことを考える」
 バルクはタバコを()いながら、
「ヤウクさん、あんた生まれは」
「僕は捨て猫みたいなものさ」
 ヤウクの言葉は、彼の来歴を簡単にあらわしたようなものだった。
ロシア系ドイツ人の運命は、常に時代にほんろうされる存在だった。
 18世紀に請われて、ロシアに渡った彼らの運命は、一言で言えば過酷だった。
帝政時代も、ソ連になってからも、同じだった。
 一定の自治を認めるようで、その政治情勢で強制的に同化を求められた。
ソ連では、選挙権も徴兵権も剥奪され、カザフスタンにある居留地に留め置かれた。
 追放された東ドイツの地でも、ロシア人として扱われた。
自分は、民族はドイツ人でありながら、人から見ればロシア人なのだろう。
 生まれた時から恵まれた立場にいるユルゲンとアイリスディーナの兄妹。
党の大幹部の孫娘ベアトリクスなどとは、全然違うのだ。
 それにロシア系ドイツ人とは言え、先住民のソルブ人の様に少数民族の得点はない。
上級学校への無資格での入学やソルブ語の使用のような、手厚い保護もない。
 だから、ドイツ社会からも、ロシア社会からも捨てられた存在なのだ。
それ故に、捨て猫みたいな物と、つい、本音を口走ったのだ。
「君も同じだろう。暖衣飽食
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