十話 暗転
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!……クソ」
のしかかったハニー・イーターの爪が振り下ろされた衝撃でポーションの瓶を取り落としてしまう。トールのレベルや装備が階層に対して上等なお陰か一撃毎に削られるHPは全体の一割程でしかなかったが、このままのしかかられ一方的に攻撃を受け続ければ危うい。
少しでもダメージを減らすべく盾を体の上に掲げながら、落としたポーションを拾おうとした手が届こうとしたとき。
トールの目の前でポーションの小瓶が飛来した青い光を纏う細いピックに貫かれた。
「え?」
攻撃耐性などないポーションの耐久値はそれだけで削りきられ、青いポリゴン片と化した小瓶が乾いた音と共に砕け散る。
何が起こったか理解できず、首だけを動かしピックが飛んできた方を見るとそこには腕を振り抜いた、まるで投剣スキルを使用した直後のような姿勢をとっているアルバの姿があった。
「アル……バ?」
投剣スキルなんて取っていたのか、などという場違いな思いを浮かべたトールに、振り下ろされるハニー・イーターの爪。掲げたバックラーにその勢いを僅かに減じられながらも十分に重いその一撃は視界の端のHPバーを確実に削り取る。
しかしトールの意識はそれを気にかけることができないほどに混乱しきっていた。砕けたポーション、そしてモンスターに拘束されているトールを助けようともせず、冷えた視線で見下ろしているアルバ。
何が起こったのか、推測は出来ても理解することをトールの頭が拒んでいた。パーティメンバーとしてこのアインクラッドで生死を共にした仲間に、見殺しにされようとしているなどという受け入れがたい現実を。
「どうしてだ……アルバ」
振り下ろされる豪腕、削られていくHPはイエローゾーンに達していた。両手剣を背に収め戦闘体制を完全に解いているアルバは投げられた問いに、よく見せる頭をかく仕草をすると一言だけ、呟く。
「わりぃな」
いつしか盾で身を守ることすら忘れ、打ち下ろされる大熊の爪に視界の端でHPバーががくりと削られていくのを他人事のように呆然と見ていたトールの脳裏に一つの出来事が思い返される。
初めて下層プレイヤーのレベリングを支援した時のことだった。出現モンスターの事前調査を怠ったがために、ターゲットを上手く自分に集めることができず、ダメージに慌て逃げ惑い、分断されたところをモンスターに狙われ命を散らしていく下層プレイヤー達。
以降トールは安全に安全を期した上でレベリング支援を行うようになった。装備を整え、情報屋に払う金銭を惜しまず狩場環境も調べつくす。多くの下層プレイヤーを死なせてしまったその経験による罪悪感こそがトールが過剰なまでの下層支援を行っている最大の理由だった。
あの時死なせてしまったプレイヤーの友人、知人に復讐の依頼を受
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