第一章
[2]次話
浮気には余裕が必要
高橋惟正は今多忙を極めている、部長に昇進してしかも社運を賭けた一大プロジェクトの責任者になったのだ。
毎日朝早くから夜遅くまで働いていた、それで毎晩深夜に家に帰っていたが。
「今が正念場だから」
「もう会社に行くのね」
「そうするよ」
始発に向けて家を出る時に妻の麻央に言った、初老で眼鏡をかけて四角い顔に白いものが目立ってきた一七〇位の背の男である。
「これからね」
「それで終電でなのね」
「帰るよ、家には絶対に帰るから」
起きたててパジャマの上にどてらを着ている妻に言った、四十代後半でやや肉がついてきていて茶色にした髪の毛はパーマにしている垂れ目で小柄な女性である。
「それで休んでるから」
「休んでるってシャワー浴びて寝てるだけじゃない」
「それでも違うから」
家に帰ればというのだ。
「今日も終電でね」
「帰るのね」
「ご飯はいいから」
それはというのだ。
「いつも通りね」
「コンビニ弁当ね」
「このプロジェクトが終わるまでは」
「無理しないでね」
「してるけれど倒れるまでじゃないから」
疲れが見える顔で答えた。
「大丈夫だよ」
「これが終わったらゆっくり休んでね」
「そうするよ」
こう言ってだった。
早朝出勤をした、妻はそんな夫を見送り。
高校生の娘が起きると一緒に朝ご飯を食べて部活の朝練に行く彼女を見送った、そんな日々の中ふとだった。
家に電話がかかってきてだ、こんなことを言われた。
「高橋さんですか?」
「はい」
「ご主人おられますか?」
「主人は会社です」
実際にそうなのでこう答えた。
「主人にご用でしょうか」
「では奥様でいらっしゃるでしょうか」
電話の主は今度はこう言ってきた。
「そうでしょうか」
「そうですが何か」
「実はですね」
電話の主は一呼吸置いて麻央に言った。
「あなたのご主人浮気しています」
「はい!?」
「会社の若い人と」
こう言うのだった。
「そうしています」
「絶対にないです」
瞬時にだ、妻はそのことを否定した。
「あなた誰か知らないですが嘘を言わないで下さい」
「嘘じゃないですよ」
「嘘です、主人は最近休日返上で毎日朝早くから夜遅くまで働いています」
社運を賭けた一大プロジェクトの責任者としてだ。
「明らかに疲れていて余裕がありません」
「本当ですよ」
「時間も体力も余裕がなくて」
そうした状況でというのだ。
「浮気なんて出来ますか」
「信じられないんですね」
「あなたが嘘を言っていると確信しています」
そちらを信じているというのだ。
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