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冥王来訪
第三部 1979年
曙計画の結末
美人の計 その3
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には、暗い影が見え隠れし始めた。
「アイリスディーナが、俺を愛していないかって……そいつは愚問だな。
相手がどう思うか知るまいよ、この俺が愛したんだ」
 マサキの問わず語りに、白銀は何と声をかけてよいか思いつかなかった。
マサキが落ち込んでいるとは思わなかったが、あえてこの2か月ほど結婚に関して聞かなかったのだ。
「片思いで結構。愛されてなくて結構。
俺が愛したんだからな」
 しかし部外者である白銀が心配したところで、問題が解決するわけではない。
何かできるわけではないと、これまで触れてこなかったのだ。
「東ドイツという国籍も、東ドイツ軍将校という身分なんて関係ない。
年齢の差なんってのも関係ないさ。
愛するってのは、己の心を一人の女に捧げることさ。
相手の心を知るとか、確かめるとか、そんなのは必要のない事よ」
 そういって、マサキは湯船から立ち上がる。
白銀の正面に来ると、深々と湯けむりの中に体を沈めた。
「だが、それだけの心を、それだけの愛を男から奉げられてみよ。
その男を憎む女がいるか、どうか。
その男を愛さぬ女がいるか、どうか」
 かける言葉が見つからないと、意気消沈する白銀。
そんな反応を見ながら、マサキは苦笑した。
「俺自身にためらいがあるとすれば……
本心から、アイリスを愛していないからこそそういう恐れを抱くのではないか。
俺が作ったマシンも、財産も分けてやるつもりだ。
それで捨てられたら、それはそれでいいのではないかと……
本当に愛したんだからよ、満足できるではないかと……
そう思えてくるのだよ」
 美久は、まるで気が詰るかのような動機に似た感情を覚えた。
かつてないほどの、鮮烈な感情の衝撃であった。
「俺が疑心暗鬼になればなるほど、彼女にも伝わるはずだ。
そして、それは俺に帰ってくる。
もし、アイリスが俺を愛していないのなら、それは俺の不甲斐無さのせいさ」
 白銀は、マサキが本気でアイリスディーナの事を思っていることを内心ビックリした。
というのも、彼はマサキがキルケの時のように遊びだと思っていたからである。
遊びではなくて、本気で恋をしたというのなら違う。
 マサキが悶々と悩んでいたのは……そういう弱みがあったからと、納得した。
それにしても許せないのは、東側の人間である。
アイリスディーナ嬢の純情を弄んだのだから。
 白銀は、マサキの見合い話を思いながら、彼の純情さに思わず小さな笑みを浮かべた。
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