第百話
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第百話 葡萄の美酒夜光の杯
博士は小田切君が出した海鮮麺に水餃子と饅頭そして細かく切られたフルーツの盛り合わせを前にしてだった。
ワインのグラスを出しそこによく冷えた中国産の赤ワインを自分で注ぎ込んでから笑顔でこんなことを言った。
「最高じゃ」
「そうですか」
「あの漢詩を思い出すのう」
「その漢詩ってあれですよね」
小田切君は飲んで食べはじめた博士に言った。
「唐代の」
「涼州詩じゃ」
「思い切り西方ですけれど」
「海の幸を食いながら言うことではないか」
「かなり離れてますからね」
中国の西方と海はというのだ。
「ですから」
「しかしワインはワインでじゃ
「しかも赤ワインで」
「尚且つガラスじゃ」
この杯でというのだ。
「わしもじゃ」
「そう言われたんですか」
「うむ、中国産ワインを飲むとな」
そうすると、というのだ。
「自然とな」
「あの詩を思い出しますか」
「そうなのじゃ」
こう話すのだった。
「わしとしてはな」
「どんなものを食べても」
「当時の食事は小田切君の口には合わんであろう」
中国唐代のそれはというのだ。
「千数百年も違うからな」
「そこまで違うとですね」
「調理の仕方がな」
「全く違いますね」
「今の方がずっと進歩しておるしな」
料理の技術もというのだ。
「だからな」
「それで、ですか」
「当時に中国の料理はな」
「僕には合わないですか」
「これがな」
「そうなんですね」
「今わしが食っておる料理もな」
これもというのだ。
「なかった」
「そうでしたか」
「そのことも覚えておいてくれたらな」
「いいですか」
「わしは嬉しい」
こう言って赤ワインを飲む、そして海鮮麺を食べる。そうしてこの日の夕食を楽しんでいくのだった。
第百話 完
2023・9・24
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