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冥王来訪
第三部 1979年
曙計画の結末
部隊配属 その3
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、決して肯定したのではない。
むしろ不満であった。
近代戦の常識論など聞く耳は持たぬ、といったような風さえ、うかがえる。
 しかし、議長には、信念はあっても、彼らの常識論を言い破るだけの論拠が見つからないらしかった。
単に不満なる意思を(おもて)にみなぎらせるしかない沈黙であった。
「…………」
 当然、評議の席は、沼のように声をひそめてしまう。
防空軍司令や参謀らの主張と、それに飽き足らない議長の顔つき。
一同の口を封じてしまった如く、しばらく、しんとしていた。
「お。――シュトラハヴィッツ君」
 突然、議長が、名をさした。
遥か、末席のほうにいた彼の顔を、議長の眼は、見つけたように呼びかけた。
「シュトラハヴィッツ君。
君の意見はどうなのか。遠慮なく、そこにて発言したまえ」
「はいッ……」
 返辞が聞えた。
しかし、上座の重臣たちには、それを振り向いても、姿が見えないほど、遠い末席であった。
「どうなのだ」
 重ねて議長がいう。
自分の意思を、自分に代って述べそうな者は、議長の眼で、この大勢の中にも、彼しかなかったのであった。
「防空軍司令、参謀、その他、重臣方の御意見は、さすがに簡単明瞭。
ごもっともな御意見と拝聴いたしました」
 シュトラハヴィッツは、そう言いながら、席から立ち上がって、議長のほうへ体を向けていた。
衆目が、一斉に、壮年の中将に注がれる。
 唐突だった。
何を思い出したか、防空軍司令から急に訊たずねだしたのである。
「航空戦力2万機を誇るソ連赤軍が、BETAに惨敗した。
同志シュトラハヴィッツ中将、君の意見はどうだね」 
シュトラハヴィッツは、防空軍司令の真剣な(おもて)を、微笑みで見上げ、
「同志大将。
制空権の確保は、戦争を優位に進めることにはなります。
ですが、戦争全般の勝利にはつながりません。
1950年の朝鮮動乱、1960年代のベトナム戦争。
いずれに際しても、米空軍の圧倒的な制空権の下で大量の爆弾の雨を降らしました。
ですが、それでも陸上戦力の壊滅には至りませんでした。
朝鮮の山がちな地形や、ベトナムの濃密な森林。
それらによって、高射砲や戦車などを隠すことができ、米軍側を困らせることに成功しました。
制空権があっても、先の大戦のように地上部隊を送り込まねば、勝利はおぼつかなかった……
小官は、そう愚考しております」
 シュトラハヴィッツのことばに、防空軍司令は軽くうなずいた。
「そうか。そうであったか」
 その間に、シュトラハヴィッツの人物を観ているふうであった。
シュトラハヴィッツは、敢えて、へつらわなかった。
また、いやしく()びもせず、対等の人とはなすような態度であった。
 嫌味がない。
虚心坦懐(きょしんたんか
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