暁 〜小説投稿サイト〜
魔法絶唱シンフォギア・ウィザード 〜歌と魔法が起こす奇跡〜
AXZ編
第181話:優しい壁
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調だけではない。マリアもセレナも、切歌でさえも、失った過去を懐かしみ、想いを馳せると言う事をしていなかった。共に苦しい日々を過ごす中で、彼女達の中に一種 の連帯感の様なものが生まれ、それが過去を振り払ったのだろう。
 そんな彼女達に、肉親を失った悲しい過去を無理矢理思い出させるのは酷な話だ。何も明かさず、初対面の相手として接する事もある意味では正しいのだろう。

 だが、そうなると宮司はどうなる? 彼は面影程度とは言え、調の事を知っている。過去の面影に縋り、失った過去に触れたいと思うのは人として当然の行動だ。彼はそれを自ら禁じている。辛いとは思わないのだろうか?

「宮司さん、あんたはそれでいいのかい? このまま調ちゃんと、偶然知り合っただけの関係で終わっても……」

 確認する様に颯人が問えば、宮司は何処か儚さを感じさせる笑みを浮かべて答えを口にした。

「どうせ老い先短い老人です。私の個人的自己満足より、あの子がこのまま幸せにしてくれていれば、仮にあの子が私の孫だったとしても私は一向に構いません」

 それは、一種の逃避にも近いのだろう。ここまで材料が揃っておきながら、実際にはそれはただの偶然で自分とは縁も所縁もない相手だったと言う現実にぶち当たるくらいなら、このままもしかしたら血縁かもしれないと言う期待だけを胸に生きていく。シュレディンガーの猫、真実の蓋を敢えて明けない事で希望を胸に仕舞い生きていくつもりなのだ。

 それを間違っていると断言するには、颯人はまだ若過ぎた。彼はそれ以上この事を宮司に問い詰める事をするのは止めにした。

「分かった。あんたは『もしかしたら調ちゃんと血縁関係があるかもしれない』……それだけにしておくよ」
「ありがとうございます」
「あぁ、ただ……一つだけ頼まれてくれないか?」
「何を?」

 宮司がこれ以上調との関係を近付けたくないと言うのであれば、強制はしない。それは颯人の身勝手でありエゴでしかないからだ。だが、同時に彼は利用できるものは何でも利用するつもりだった。そうしなければ、越えられる壁も越えられない。

「あの子に……調ちゃんに、ちょいとアドバイスしてやってくれ。生き別れた祖父かもしれない老人としてじゃなくて、1人の人生の先達として」
「それでしたら、喜んで」

 宮司は日中に浮かべたのと同じ笑みを浮かべて頷き返した。それは同時に、この話の終わりを意味しても居た。




***




 その頃、パヴァリア光明結社がアジトとしているホテルのスイートルーム。そこでプレラーティは、灯りを消して窓から差し込む街の光だけを光源にして1人グラスに牛乳を注いでいた。

「あのおたんちん……。元詐欺師が1人で格好つけるからこうなったワケダ……」

 
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