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八条学園騒動記
第七百二十七話 象の過去その四

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「かつてはな」
「酷い話でしたね」
「本当に象で三歳となるとな」
 その歳ならというのだ。
「もう立って元気に動けるが」
「赤ちゃんですね」
「そう言っていい歳でな」
 それでというのだ。
「母親から離れずな」
「その愛情を受けて」
「うんと甘えるだ」
「そんな歳ですね」
「そんな歳で親から引き離されてな」 
 強制的にである。
「そして調教を受けたが当時のそれはな」
「酷いもので」
「虐待と言ってもだ」
「差支えなかったですか」
「それをずっと受けて心まで壊されてな」
「そうしてですか」
「無理矢理毎日だ」
 それこそというのだ。
「ショーのある日は一日何度もな」
「芸を披露させられて」
「酷使されてだ」
「そうしてですか」
「三歳でだ」
「死んだのですね」
「そうした話もあった」
 悲しいものを宿らせた目のまま話した。
「かつてはな」
「酷い話ですね」
「私もそう思う、だが今はな」
「そうしたことないですね」
「連合のサーカスでもな」 
 こちらでもというのだ。
「ない、流石にな」
「動物愛護は強い倫理観としてあるので」
「それでだ」
 そのうえでというのだ。
「そんなことはしない」
「左様ですね」
「だからだ」 
 今はというのだ。
「安心していい」
「それは何よりですね」
「虐待はないに限る」
 絶対に、そうした言葉だった。
「まして我々はだ」
「絶対にですね」
「人を。武器を持たない者を護らねばだ」
 軍人であることを出来る限りぼかして話した。
「さもないとだ」
「何の為にいるのか」
「武力は持つべきだ」
 こちらの力はというのだ、大尉は今武力と暴力の違いを自分の中で明確に区分してそのうえで上等兵に話した。
「その力はな、だが暴力はな」
「持つべきではないですね」
「絶対にな」
 何があってもというのだ。
「暴力は理性のない力だ」
「そうしたものであって」
「武力は戦う為護る為のだ」
「敵に対する力ですね」
「だが暴力は違う」
「抵抗出来ない相手に振るいますね」
「生きものなり人でもな」
 どういった相手でもというのだ。
「自分に何も出来ないからな」
「振るうもので」
「そういったものだからな」
 それでというにだ。
「それでだ」
「持ってはいけない力ですね」
「恥ずべきものだ」
 大尉は唾棄した声で言った。
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