第一章
[2]次話
お金の問題じゃない
消防署員の平野惇はお金に五月蠅い、節約家でありかついつもお金が欲しいと思っている。それを口にも出していた。
「もう少し収入があればなあ」
「公務員でそう言ってもな」
その彼に同期の細川大吾が応えた、薄茶色の髪を少し伸ばしていて細面ですっきりとした優しい顔立ちで背は一七〇位ですらりとしている平野とは違い彼は黒髪をショートにしていてはっきりとした顔立ちだ。体型は似ているが背は彼の方が五センチ位高い。
「仕方ないだろ」
「いやいや、職種によってじゃないか」
平野は細川に反論した、今は同じ署の同じ部署にいて職場も同じなのだ。
「消防署もね」
「それで職種によってか」
「手当がついてね」
それでというのだ。
「お給料が違うね」
「お前はそれを言いたいんだな」
「そうだよ、収入がいい職種に移ろうかな」
よくこう言っていた、その彼にだった。
ある日上司が彼の言っていることを聞いて言ってきた。
「手当が欲しいのか」
「はい、それでです」
平野は上司に自分の考えをそのまま答えた。
「今以上にです」
「お金が欲しいか」
「お金がありませんと」
どうかとだ、平野は言った。
「世の中困りますよね」
「それはな」
上司も否定せずに答えた。
「何と言ってもな」
「その通りですよね」
「ああ」
そうだとだ、平野に答えた。
「本当にな」
「ですから僕としては」
「消防署の中でだな」
「手当を貰えて」
「お金が欲しいか」
「はい、そうした職種は」
「地域手当があるけれどな」
上司は真面目な顔で答えた。
「もうそれはわかっているな」
「あれですね」
「それで何と言ってもな」
「レスキューとかになるとですね」
平野の方から言った。
「危険手当がついて」
「いいぞ、どうだ」
「地域手当は兎も角」
平野は真面目な顔で答えた。
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