第四十四話 狐狸その七
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「ほんまや」
「悪くない」
「あの、断ったら終わりでな」
シェリルも言ってきた。
「嬲り殺しにするのは」
「ほんまないな」
「私も思うわ」
こう芥川に話した。
「やり過ぎやない」
「非道やな」
「幾ら何でもな」
それこそというのだ。
「狸かて心があってな」
「生きてるな」
「その命をそこまで虐げられる」
「もうそれはな」
「ほんま邪悪やな」
「相当なレベルの」
「かちかち山の兎もこの塔におるけど」
「原典の方や」
そちらの兎だというのだ。
「太宰さんの方やないで」
「そやから安心出来るな」
「復讐鬼と邪悪はまたちゃう」
芥川は原典の兎を前者とし太宰版の方を後者とした。
「復讐鬼は復讐に心を囚われていて残忍で卑劣で陰湿になっても」
「悪とは限らへんな」
「しかし邪悪はな」
「その言葉通りやな」
「そや」
まさにというのだ。
「まさにな」
「似てもないな」
「復讐鬼が邪悪になることはある」
復讐を行うにあたって心に持つことになる憎悪の感情が高まりそしてその心が囚われてである。そうなることもあるのだ。
「しかしな」
「元々の邪悪はな」
「復讐鬼とはちゃう、自分は自覚してへんでも」
その場合でもというのだ。
「邪悪はな」
「邪悪やな」
「復讐は確かに憎悪でな」
この感情でというのだ。
「人を歪ませるが」
「それでもやな」
「そこから邪悪になる場合はあっても」
「邪悪にならん場合もある」
「そこはそれぞれや」
復讐鬼のというのだ。
「確かにええもんやないが」
「復讐鬼も」
「憎しみばかり心にあるからな」
復讐を考えてというのだ。
「その相手を憎んで」
「ずっとそうやから」
「そのうち憎しみに飲み込まれてな」
自分の中にあるそれにだ、自分の感情に飲み込まれる即ち心を支配されることもままにしてあるのだ。
「それでな」
「憎しみに潰されるな」
「心をな」
「そうもなるな」
「かちかち山の兎はな」
「原典の方は」
「復讐鬼や」
そちらになるというのだ。
「そやから憎しみにな」
「心を支配されてるな」
「そやからあそこまでした」
お婆さんの仇の狸にだ。
「そうした、けどな」
「太宰さんの方は」
「邪悪や」
それになるというのだ。
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