第三部 1979年
曙計画の結末
篁家訪問 その2
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たたかな女は、嫌いじゃないぜ。
ベルンハルトの妻といい、珠玉のような女性巡り合えるとは……」
言うなりマサキは、惚れ惚れとミラの顔を眺めながら、酒を酌んでいた。
ミラは、技術者というのに話し上手で、マサキを飽きさせなかった。
話は弾んで、食事が進み、清酒がマサキの気持ちをリラックスさせた。
「ほう。なかなか機械工学に造詣が深いではないか。
まさかマサチューセッツ工科の大学院出ではあるまい。
もしそうならば、この俺は大変な才媛との出会いを得たわけだ」
マサキは、ミラが思ったよりも若いのに驚いた。
米国の工学系大学院というのは、基本5年間だからである。
日本と違って、米国の工学系の大学院は修士と博士課程がセットになっていた。
最初の2年で基礎的な数学の授業をした後、残りの3年間で博士課程を受けるという制度。
だから、ミラが3年に及ぶ曙計画に参加したというのに、まだ20代後半である。
その事実に、ひどく驚いたのだ。
普通ならば、22歳で大学を出て、そこから5年間博士課程をやれば、早くて27歳。
曙計画を考えれば、30歳になっていなければ、おかしいくらいだったからだ。
無紋の色無地を着ていても分かるすらっとした体に、抜けるような白さの肌。
上品な育ち方をした女は、やはり見た目も上品である。
南部出身の田舎者というイメージがあったが、会ってみれば、ミラは中々の美人ではある。
第一印象は、合格だった。
美しい女が奉仕をするので、マサキは目を細めて眺めた。
柔らかく繊細な指で酌をする内に、マサキの顔色はみるみる赤くなっていった。
「話は変わりますが、曙計画はどうなりましたか」
マサキの脇にいた美久は、穏やかな視線をミラに向ける。
「ええ、順調に進みましたよ」
ミラは、すぐに華やかな笑みを浮かべる。
この辺りは何の変哲もない社交辞令なのに、美久の電子頭脳には引っかかった。
ミラは、曙計画でのエピソードと篁との出会いを話してくれた。
その表情をみて、美久はどこか空々しいものを感じ取っていた。
「木原さんも、曙計画に来ればよかったのに」
ミラは、静かに酒を飲むマサキへ、それとなく話を振った。
マサキは、冷たい杯を手に挙げて白く笑った。
「ハハハハ。
この木原マサキが、いまさらその様な計画に真顔に耳が貸せようか。
笑止千万な話よ」
「でもね。こちらも楽しかったのよ」
そのうちミラの目が、マサキの方を向いた。
ミラの目はいくらか碧がかっており、宝石のような輝きを帯びていた。
「あの、木原さん。話があります」
ミラの口調には強い意志が感じられた。
マサキとしては、笑うのをやめて、聞き入るほかはなかった。
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