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呉志英雄伝
第十二話〜時勢は混沌を帯びて〜
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、目の前の初老の男性に疑問を投げつける。
対する男は至って飄々としており、不満げな主などどこ吹く風、自分の用件を伝える。



「黄巾賊は瓦解したとは申せ、いまだに領内には民を苦しめる不逞の輩が跋扈していると聞きます。為政者として、これは野放しには出来ないでしょう?」

「ではどうしろというのじゃ。今のわらわに軍権がないことは、取り上げたお主自身がよく存じておろう」



袁術は憎憎しげに顔を顰める。
いまや袁術軍にとって、袁術の存在はただの象徴に過ぎない。ただ存在さえすればあとはどうなろうと構わないのだ。
自分の非は袁術の非。責任を転嫁出来るきわめて簡単な構図である。これは古今東西、袁術軍に限ったことではない。
しかし袁遺は違った。彼は袁術にただの象徴以上を求める。いや、ある意味では以下と言っても差し支えない。



「袁術様が軍を率いる必要などないでしょう?あなたには有能な『狗』がいるではありませんか」



袁遺の袁術を見つめる眼に嗜虐の念が宿った。
答えを直接言わず、あくまでも袁術本人に求めさせる辺り、民が揃って賛美するその慈悲深さは仮初めであることがよく分かる。



「また孫策のもとへ出向けと言うのかの?」

「さすがは聡明な袁術様だ。私なんぞ思いもつかぬことを簡単に思いつきなさる」



慇懃無礼もここに極まれり。
最早侮蔑と嗜虐しか宿さぬ袁遺の言葉に袁術は内心辟易していた。この男は自分を悪役に仕立て上げようとしているのがよく理解できるからだ。しかしまだそれを面に出すことはかなわない。
袁術はつい先ほど自らの部下に言われた言葉を反芻する。





『お嬢様が辛いのはよく分かっております。それでも今は耐えなければならないんです。今動けば向こうの思う壺ですから…』





自分が最も信頼する張勲の言うとおり、今は時期ではない。傀儡たる自分にもそれくらいの思考力はある。自分の倍以上生きるこの男は自分の周りを完全に部下で固めている。
事を起こせば間違いなく、今媚びへつらっている部下はいっせいに矛を向けてくる。今は雌伏の時なのだ。
喉まで出掛かった罵声を飲み込みつつも、彼女はいつ終わるかも定かではない雌伏を甘受する。
そして今日も彼女は袁遺に都合のよい『人形』として、課せられた使命を消化すべく動くのだった。






――――――――――――――――――――――――――――







袁術が去った後の、袁遺の私室。
そこには別の来客の姿があった。彼は人目を忍ぶように顔を布で覆い隠している。
しかし、袁術軍実質の支配者である袁遺はそんな無礼を意に介さず、その男に接する。



「ご苦労でしたな。これでようや
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