第十二話〜時勢は混沌を帯びて〜
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。………ところで袁術様、袁遺様がお呼びです」
今まで底意地の悪い笑みを浮かべていた張勲―七乃―は、間を取り、表情を引き締めると臣下として主に報告を申し上げた。
報告を聞いた袁術は先ほどとは違った表情のゆがめ方をする。
「…ふん、どうせまた孫呉に出向いて挑発してこい、などと申すのであろ?」
因みに確認しておくが、袁術が属する勢力の頂点は他でもない袁術である。
しかしその袁術の言葉からして、今彼女を呼びだしている人物は彼女以上の立場にあることが推察できる。それがすなわち何を指すのか。
「傀儡も楽ではないのぅ、七乃」
そこには年にそぐわない表情を浮かべる袁術の姿があった。そんな袁術を見た張勲は、その華奢な体を抱こうとするが、それでもそれは未遂に終わる。
袁術は俯きがちに、袁遺なる人物が待つ場所へと歩いて行った。
青年も張勲も、縮こまる小さな背中をただ悲痛な面持ちで見つめることしか出来なかった。
「…義封さん」
幼き主の背中を見えなくなるまで見続けていた張勲は同じく佇んでいた施然に語りかける。
「どうしましたか、張勲殿」
「…本当にこれでいいんですか?」
張勲の疑問の言葉には弱弱しさがにじみ出ていた。
そしてその態度に先ほどまでの毒づいていた彼女は感じ取れない。
「少なくとも、今は動くわけには参りません…袁遺殿も張勲殿が耐えていることに気が付いているのでしょうから。もし動けば…」
そこまで言うと施然は口を閉ざした。
言霊という言葉があるように、もし口に出してしまえば現実に成り得る。それだけはさせまいと、彼は口を固く結んだ。
揚州・寿春を中心に、また歴史に残る出来事が起ころうとしていた。
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汝南・寿春を含めた揚州北部における袁術の評価というものは著しく低い。
要因は様々にあれど、その最たるものが民を省みぬ重税である。また彼女の配下である者たちの素行も怨みを買う一助となっている。
そんな悪評高い袁術と異なり、着々とその名声、そして力を蓄えているのは皮肉にも彼女の一族である袁遺だった。
彼は度々暴政を敷く袁術に諫言を行うが、その悉くを無視され、また主意に逆らうが故に不遇を囲うことになったとされる。
民はそのことから袁遺を慈悲深く、物事の分別をわきまえる賢人と評した。無論領内では袁術に代わる為政者として袁遺を望む声が大半を占めている。
しかし民は知らなかった。
自らを苦しめる悪しき存在は何なのか。
「何の用じゃ」
不満気な表情を隠そうとしない袁術はこれまた不満を募らせた声色で
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