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第四十二話 虚無その十六

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「ですから」
「それでだね」
「今少し留まります、僕の子の世でのすべきことは全て終わったと思いましたが」
「まだあったね」
「一つ。では」
「一緒に見ていこう」
「そうしましょう。それでなのですが」
 牙暁自身に言った。
「若しです」
「若し。何かな」
「牙暁さんが目覚めれば」
「その時は」
「美味しいお店に行かれてはどうでしょうか」
「いいね」
 牙暁は星史郎のその言葉に目を細めさせた、口元を微笑まさせてさらに言った。
「それは」
「そうですね」
「ずっと夢の中にいて」
「美味しいものを召し上がることもなかったですね」
「栄養は点滴で貰っているけれど」
 それでもというのだ。
「ずっとね」
「そうですね、ですから」
「目を覚まして」
「起きられた時は」
 その時はというのだ。
「どうでしょうか。これでも美味しいお店は結構知っています」
「じゃあ教えてくれるかな」
「はい」 
 星史郎の今度の笑みは澄んだものであった。
「それでは」
「目覚めることはね」
「ないとですね」
「ずっと思っていたけれど」
「それでもですね」
「今そう言われて」
 星史郎にというのだ。
「若しかしたら」
「どうもです」
 星史郎はさらに言った。
「この戦いが終われば」
「その時にだね」
「牙暁さんは目を開けられて」
 即ち起きてというのだ。
「世に出られる様にもなります」
「そうなるんだね」
「そんな気がします」 
 こう言うのだった。
「僕は」
「そう言われるとね」
「嬉しいですか」
「この戦いに希望が持てる様になったけれど」
「人間についてもですね」
「星史郎さんの今の言葉で」
 まさにそれでとうのだ。
「僕自身のことにもね」
「希望が持てる様になりましたか」
「なったよ」
 本当にというのだ。
「はじめてだよ」
「牙暁さん自身のことで希望が持てたことは」
「若し起きられたら」
「美味しいお店に行かれますね」
「星史郎さんが紹介してくれるね」
 これからというのだ。
「そうしたお店に行って」
「楽しまれますね」
「世の中を歩き回って見て回って」
 そうしたことをしてというのだ。
「美味しいものもね」
「召し上がられますね」
「夢の中から色々なものを見て来たけれど」
 それでもというのだ。
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