暁 〜小説投稿サイト〜
冥王来訪
第三部 1979年
曙計画の結末
甦る幻影  その3
[3/3]

[8]前話 [9] 最初 [1]後書き [2]次話
サイルと、高起動の戦術機が切り札になる」
 ヘレンカーターは、委縮する青年将校を横目で見る。
静かに「パーラメント」の箱からタバコを抜き出すと、火をつける。
「大尉、君は下がりなさい」
 海軍提督の言葉とあって、副官の青年将校は口をつぐんだ。
彼は、顔色一つ変えずに、教本の様な敬礼をするとその場を後にした。

 アメリカ海軍の新型戦術機の試験飛行に、仰天したソ連。
緊急の政治局会議が、ウラジオストックの臨時本部でなされていた。
「米海軍が、300メートル超の大型空母の建造計画を進めているというのは、確かなのか」 
 書記長の問いに対して、外相は静かに答える。
かの人物は、国連で拒否権を連発したことから「ミスターニェット」と呼ばれていた。
「確認済みです。
駐米大使の報告の他に、公式非公式の資料からも間違いないように思えます」
 それまで黙っていた国防大臣が口を開く。
彼は半世紀以上軍事産業に関わり、スターリンの手ずから軍需工業人民委員に抜擢されるほど。
30年ほどで、ソ連の軍拡を進め、米国に比するまで育てあげてきたのだ。
「同志議長、願ってもない軍拡の好機です。
米国の侵略的意図を世界中に公表し、我らが防衛のため軍拡を進めても……。
誰一人として、非難はできますまい」
ソ連戦略ロケット軍司令官を兼務する、国防次官もそれに続く。
「国連憲章第51条において、個別の自衛権は認められた権利です。
それに国際法の概念として、自衛権の行使、それそのものは、自然権であります。
生まれながらにして認められた権利であるのです、同志議長!」
 赤軍参謀総長は瞋恚を明らかにして、立ち上がる。
いつにない激越な口調で、大臣を非難した。
「同志大臣、あなた方はアメリカを甘く見過ぎている。
彼らはそんな事では屈服しまい……。
それに、まちがいなく木原が出てくる」
 国防大臣は、不敵の笑みを満面に湛えると、
「米国の顔色うかがう黄色い猿など、屈服させて見せる。
初戦で20・30万も死者が出たら、さしもの侍どももおっ魂消(たまげ)て、将軍の降伏文書をもってこよう。
それでもへこまねば、100万人を消せばいい」
「同志大臣、貴方はどうかなさっている。
そんな気違い沙汰を平然と口走るなどとは、少しばかり休まれてはいかがですかな」 
一連の話を黙って聞いていた書記長は、立ち上がると、
「不毛な議論を続けている時ではあるまい。
一時、休会だ」
と、護衛と共に別室に退いた。 
政治局会議は、邪険な雰囲気のまま、休会した。
[8]前話 [9] 最初 [1]後書き [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ