第三部 1979年
曙計画の結末
甦る幻影 その3
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サイルと、高起動の戦術機が切り札になる」
ヘレンカーターは、委縮する青年将校を横目で見る。
静かに「パーラメント」の箱からタバコを抜き出すと、火をつける。
「大尉、君は下がりなさい」
海軍提督の言葉とあって、副官の青年将校は口をつぐんだ。
彼は、顔色一つ変えずに、教本の様な敬礼をするとその場を後にした。
アメリカ海軍の新型戦術機の試験飛行に、仰天したソ連。
緊急の政治局会議が、ウラジオストックの臨時本部でなされていた。
「米海軍が、300メートル超の大型空母の建造計画を進めているというのは、確かなのか」
書記長の問いに対して、外相は静かに答える。
かの人物は、国連で拒否権を連発したことから「ミスターニェット」と呼ばれていた。
「確認済みです。
駐米大使の報告の他に、公式非公式の資料からも間違いないように思えます」
それまで黙っていた国防大臣が口を開く。
彼は半世紀以上軍事産業に関わり、スターリンの手ずから軍需工業人民委員に抜擢されるほど。
30年ほどで、ソ連の軍拡を進め、米国に比するまで育てあげてきたのだ。
「同志議長、願ってもない軍拡の好機です。
米国の侵略的意図を世界中に公表し、我らが防衛のため軍拡を進めても……。
誰一人として、非難はできますまい」
ソ連戦略ロケット軍司令官を兼務する、国防次官もそれに続く。
「国連憲章第51条において、個別の自衛権は認められた権利です。
それに国際法の概念として、自衛権の行使、それそのものは、自然権であります。
生まれながらにして認められた権利であるのです、同志議長!」
赤軍参謀総長は瞋恚を明らかにして、立ち上がる。
いつにない激越な口調で、大臣を非難した。
「同志大臣、あなた方はアメリカを甘く見過ぎている。
彼らはそんな事では屈服しまい……。
それに、まちがいなく木原が出てくる」
国防大臣は、不敵の笑みを満面に湛えると、
「米国の顔色うかがう黄色い猿など、屈服させて見せる。
初戦で20・30万も死者が出たら、さしもの侍どももおっ魂消て、将軍の降伏文書をもってこよう。
それでもへこまねば、100万人を消せばいい」
「同志大臣、貴方はどうかなさっている。
そんな気違い沙汰を平然と口走るなどとは、少しばかり休まれてはいかがですかな」
一連の話を黙って聞いていた書記長は、立ち上がると、
「不毛な議論を続けている時ではあるまい。
一時、休会だ」
と、護衛と共に別室に退いた。
政治局会議は、邪険な雰囲気のまま、休会した。
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