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冥王来訪
第三部 1979年
曙計画の結末
篁家訪問 その1
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になることは珍しく、真冬でも日中は10度近くまで上がった。
その点が京都とは違うと、しみじみと思い返していた。
 昼過ぎに仕事から帰ってくると、グレートゼオライマーの図面を修正していた。
製図版を抱き込むようにして座っていると、鎧衣(よろい)が来た。
既にとっぷりと日が暮れた時間で不審に感じたが、一応来た理由を尋ねる。
「どうした、こんな日暮れに来て」
「私と一緒に、あるところまで付き合ってほしい」
 その言葉に、一抹の不安を感じた。
この男がそういう時はたいていよからぬ話だからだ。
「土曜日の午後ぐらい、ゆっくり休ませてはくれぬのか」
 まだこの時代の土曜日は、出勤日だった。
当時の日本社会では土曜は休日の扱いではなかったからである。
午前中だけ勤務するのがあたりまえで、そのことを指して半ドンと長らく呼ばれていた。
(半ドンとは、蘭語のzondagに由来し、半分の休日という意味である)
一般社会で完全週休二日制が導入されるのは1980年代以降であり、官公庁は1992年(平成4年)まで待たねばならなかった。
 マサキには一応年間の有給が残っていたが、アイリス関連で使うつもりでいたので平日は休むつもりがなかった。
しぶしぶながらも鎧衣の対応に応じることにしたのだ。


 連れてこられた場所は、洛中にある篁の邸宅。
作りからすると、江戸中期に建てられた武家屋敷で、立派な門構えであった。
鎧衣が屋敷の前で、取次をすると、間もなく屋敷の大門が開く。
マサキは、くぐり戸から内玄関からではなく、式台がある本玄関に車で乗り付けた。
 式台とは、玄関の土間と床の段差が大きい場合に設置される板の事である。
かつて未舗装の道が多い日本では、駕籠や馬で乗り付けた際、悪天候の際は足元を汚す場合が多かった。
それを避けて、貴人や主君を迎えるために、設けられた空間を指し示した。
いつしか、それは表座敷に接続し、家来の控える部屋を指し示す言葉となった。
 マサキは、この異例の対応に驚いた。
自分は、この世界では何の縁もゆかりもない根無し草。
精々持っているのは、特務曹長の肩書と、近衛軍の黒い装束を着る権利。
あとは、胸に下げる何枚かの勲章(メダル)だけなのだ。
 
 表座敷(客間)で、出された茶を飲んで待っていると、着物姿の篁が入ってきた。
武家の慣習は、よくわからない。
 だが、自宅というのに、茶色い羽織と同色の長着に、黒の襠高(まちだか)袴だった。
 篁は、履いていた太刀を外すと柄の頭を下にして刃を太刀掛の方へ向けて立てかける。
そして着席するとまもなく、慇懃に頭を下げてきた。
此度(こたび)の訪問、誠にありがとうございます」
マサキも形だけの平伏をして、それに答えた。
「面倒くさい挨拶は良い。俺を呼んだ
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