第三部 1979年
迷走する西ドイツ
忌まわしき老チェーカー その2
[2/6]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
、1965年に政界入りし、1969年には内相の地位をえた。
受付嬢の態度は終始、東洋人の男を馬鹿にしたままだった。
冷めた一瞥を男にくれたまま、顔をゆがめて、
「気は確かですか、旦那。
紹介状もなしに逢おうだなんて……
まあ一年ぐらい待ったら、お断りという返事ぐらいはいただけるかしら」
ナインとは、英語でのノーである。
鎧衣は、言外に帰れと言われたも同じであった。
「この資料を見たら、会って下さると思うんですがね」
「ちなみに、何の資料?」
「ゼオライマーに関する資料です」
「オホホホ、あなた、新聞記者かしら。オホホホ」
「私は、鎧衣左近。
ただのしがないサラリーマンです」
「どこかで、聞いた名前ね」
受付嬢が困惑する間に、鎧衣は一人でエレベーターホールまで直行しようとする。
「ちょ、ちょっと、お待ちなさいよ。あんた」
受付嬢は、引き出しから黒の自動拳銃を取り出す。
それは、ザウエル・アンド・ゾーン社の、最新式のP220であった。
しかし鎧衣は、不敵の笑みを浮かべるだけで、堂々とエントランスホールの中に入っていった。
その後を、受付嬢は、すごい剣幕で追いかける。
まもなく、鎧衣の目の前に現れたスーツ姿の若い女性。
彼女は、後ろで拳銃を構える受付嬢に、こう忠告をした。
「そんなもの、おしまいなさい」
受付嬢が、自動拳銃をしまったのを見届けた後、件の女性は会釈をして来た。
「私は、クリステル・ココットと申します。
ここの相談窓口の担当官をしております」
若い女の顔を見た瞬間、鎧衣にはピンとくるものがあった。
目の前の娘は、ただの女子職員ではない。
恐らく、BNDお抱えの女スパイであろうと……。
年のころは、18から20歳前後か。
ココットという名前は、ドイツ人の姓ではまずない名前だ。
おそらく、フランス語のcocotteに由来する偽名であろう。
cocotteの意味としては、小ぶりの蓋つきの両手鍋の事を言い、煮込み料理一般をさす言葉であった。
特殊な事例としては、第二帝政期からベル・エポックにかけ、高級娼婦の代名詞となった。
今日では、かわいこちゃんという言葉の意味に変化している。
ココットとは、なかなか、しゃれた偽名を付けたものではないか。
鎧衣が不敵に笑うと、若い女は、妖艶な笑みを浮かべながら、彼の方を向いて。
「今、クラウス・キンケルは留守にしております。
お部屋を用意しますので、そちらでごゆっくりお待ちください」
別室に連れていかれた鎧衣は、そこでキンケル長官を待つことにした。
もっとも、彼は、女の言葉を信じていなかった。
事前に把握していたキンケル長官のスケジュールでは、連邦議会でへの出席をしてい
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ