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第四十二話 虚無その十

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「あの人には奥さんも子供もいなかったから」
「強いて言うなら昴流さん達か」
「それで僕か姉さんにとなったけれど」
「好きな人はいないと言ってもか」
「僕達を好きになったから」
 だからだというのだ。
「若し僕達が星史郎さんを殺したら」
「次の桜塚護になったな」
「姉さんか僕がね」
「そうなれば」
 昴流はその時のことも話した。
「僕達はそれぞれ殺し合うことになっていたよ」
「皇家当主と桜塚護としてか」
「互いに陰陽道を司る」
「表と裏のだな」
「そうなっていたよ、そして」
 さらにだ、昴流は神威に話した。
「星史郎さんが地の龍でなかったら」
「北都さんがか」
「地の龍になっていて」
「姉弟でだな」
「血を分けたお互い誰よりも大事に想っている」
「そうした者同士で殺し合っていたか」
「そうなっていたよ」
 間違いなくというのだ。
「地の龍は必ず七人いるから」
「天の龍と同じだな」
「戦いがはじまる時は」
「それでだな」
「姉さんが地の龍の力を受け継いで」
 星史郎に代わってというのだ。
「そして」
「闘っていたか」
「干し史郎さんは僕達がそうなって欲しくなかった」
「だから北都さんを殺したか」
「そして」
「昴流さんにわざとだな」
「自分に跳ね返る攻撃をしてね」
「死んだか」
「そして最後に」
 いまわの際にというのだ。
「そう言ってね」
「昴流さんを桜塚護にしなかったか」
「桜塚護を終わらせる為に」
 まさにそれだけでというのだ。
「そうしたんだ」
「そうか」
「全てわかったよ、ただ」
「それでもか」
「全てわかったけれど全てが終わって」
 神威にベッドに横に腰掛けた姿勢で遠くを見る目で話した。
「今の僕には何もないよ」
「残ったのは昴流さんだけか」
「あの時僕にあったものは全てなくなったよ」
 三人の写真を見つつ言った、そうしてそのうえでそこにいる自分以外の二人の笑顔に永遠に失われたものを感じてさらに言った。
「そう思うとね」
「今はか」
「暫く。悪いけれどね」
「動けないか」
「戦いにはね。また戻るけれど」 
 それでもというのだった。
「今はね」
「わかった、休んでくれ」
 これが神威の返事だった。
「もうな」
「そうしていいんだね」
「ああ、昴流さんはやるべきことを果たした」
 優しい微笑みになって話した。
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