第四十一話 好意その十
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「君にそうして欲しくないのは」
「皆さんですね」
「地の龍のね。そして」
「あの人もですか」
「わかっている筈だよ」
「わかっていますよ」
星史郎は牙暁に背を向けたまま微笑んで答えた。
「そのことが。そしてずっとです」
「僕達とだね」
「一緒にいられれば」
それが出来ればというのだ。
「幸せですね」
「間違いなくね」
「ですが幸せも堪能しました」
「もう充分なんだ」
「皆さんに美味しいお店も紹介出来ましたし」
このことについても言うのだった。
「もう思い残すことはありません」
「何もだね」
「全く」
こう答えたのだった。
「ありません、ですから」
「行くんだね」
「そうしてきます」
「運命だからかな」
「運命ですか。変わってますよね」
牙暁の方に振り向いて問う様にして言った。
「そうですよね」
「こうなる筈はなかったのに」
「封真君達のお父さんは生き残って??君はお祖父さんと暮らせて」
「彼女は生きているよ、天の龍の一人の親戚もね」
「そうなっていますね」
「思わぬ偶然、いや必然かな」
牙暁はここで思った、これまで運命が変わってきたことは全て偶然ではなく必然があってのことであったと。
「これは」
「庚さんが命を奪うことを好まず」
「封真は自分の力であの人の介入を防いで」
「もう一人のあの人の」
「そしてそこから天の龍の血筋の彼も」
「変わっていっていますね」
「まだ何も決まっていない」
牙暁は北都がいつも言っている言葉を思い出した。
「そうなのかもね」
「そうですね。僕も同じですね」
「いや、君はもう」
「運命ではなくですね」
「決めているね、もっと言えば」
「あの時からですよ。終わらせようと」
その様にというのだ。
「決めていました、賭けと言っていても」
「彼が負けていたんじゃなくて」
「僕が負けていました、ですが僕が負けていると」
「彼が君を殺していた」
「彼女も好きになっていましたし」
「そうであるから」
「二人のうちのどちらかがなっていました」
星史郎は遠い目になり微笑んで話した、右目は見えない筈だがそれでも何かを見ている、北欧の嵐の神の様であった。
「僕を殺して」
「そうなれば」
「僕の様にです」
「闇の世界で人の命を奪う様になっていたね」
「そうでした、それであの時です」
「あの娘を殺して君は桜塚護のままで」
「ずっと考えていました、そして僕は気付きました」
牙暁に言うのだった。
「僕が嘘吐きであることに」
「それでだね」
「最後の嘘を吐くことにしました」
こう言うのだった。
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