【プロローグ】新暦65年から94年までの出来事。
【第1章】無印とA'sの補完、および、後日譚。
【第2節】ユーノ・スクライアの物語。(後編)
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た。よほど他人には読まれたくない内容だったようです。
それでも、ハドロは不審な表情ひとつ浮かべることも無く、また優しい声でその女性に語りかけました。
「では、そろそろ朝食にしようか。一人で立てるかね?」
女がうなずくと、ハドロはガウルゥを呼んで食事を運ばせました。そのテント内のテーブルで、二人きりの食事が始まります。
BGMは、デヴォルザム第三大陸〈カロエスマール〉出身の「伝説の歌姫」アディムナ・サランディスが歌う名曲中の名曲「故郷の緑の丘」でした。
アディムナ自身は三年前(新暦52年)の秋、カロエスマールで一連のテロ事件があった直後に36歳で唐突に引退してそのまま完全に世間から姿を消してしまっていましたが、この曲は今も、クレモナ人ならば誰もが口ずさめるほどの有名な歌です。
当然ながら、女もすぐに、それに気づいた様子でした。
また、テーブルマナーを見る限り、この女性は決して「下層階級の出身」という訳でも無いようです。社会的には、ごく普通の、中間層の出身なのでしょう。
互いに無言のまま食事を終えると、ハドロはふと女にこう問いかけました。
「さて、これから、君はどうしたいかね? クレモナかどこかに帰りたいのならば、送らせるよ」
すると、食事中にも自分なりにいろいろと考えていたのでしょう。女は激しく首を振ってそれを拒絶し、ハドロにこう懇願します。
「私を、あなた方の一族に加えていただく、という訳には行きませんか?」
「それは、決して楽な人生では無いよ。ここは大人しく、この歌のように故郷に帰っておいた方が、この先、君は楽に生きて行けるのでは無いのかね?」
決して強要するような口調では無かったのですが、それでも、女は再び激しく首を振りました。本当に、何かしら「戻れない事情」があるようです。
「どのみち、クレモナは私の『生まれ故郷』ではありません。私が愛着を持って故郷と呼べるような『緑の丘』は、もうどこにも無いんです」
その言葉から、女の生まれ故郷が〈カロエスマール〉であることは、容易に想像がつきました。〈管46クレモナ〉以外で、クレモナ人がまとまって住んでいる土地など、カロエスマール以外には存在しないからです。
それに、カロエスマールでは、もう二十年以上も前から全土で土地の再開発が進んでいました。おそらく、『かつては美しい「緑の丘」だった土地が、殺風景な宅地や工場用地として造成されてしまう』といったことも、決して珍しい話ではなかったのでしょう。
女は続けてこう語りました。
「お願いですから、私をここに置いてください。ここで、この子を産ませてください。ただし……この子の父親は決して探さないでください」
よほどの事情があるのでしょう。ハドロが無言のまま、『さて
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