【プロローグ】新暦65年から94年までの出来事。
【第1章】無印とA'sの補完、および、後日譚。
【第2節】ユーノ・スクライアの物語。(後編)
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らさらに半日ほど(おそらくは通算で丸一日ほど)眠り続けたのでした。
そして、翌朝になってようやく薬が切れて、大きな天幕の下で目を覚ますと、その女性はやや狼狽気味にゆっくりと周囲を見回しました。
冬場でも温暖な土地らしく、固い地面の上に直接、ベッドやテーブルが置かれています。天幕の一方は大きく巻き上げられて、外の様子を一望することができました。
女性はベッドの脇に自分の靴とトランクを確認して、まずは安堵の表情を浮かべましたが、そこでふとハドロと視線が合うと、彼の顔の右側に残る醜い火傷の跡に気づいて、今度は思わず小さな悲鳴を上げそうになります。
「ああ。目が覚めたかね。怖がらなくても良いよ。私は昔の事故のせいで、こんな見苦しい外見になっているが、君には何も危害を加えるつもりなど無い」
言葉は流暢なミッド語で、とても優しい声でした。
何の根拠も無く、『この人なら、信用しても大丈夫だ』と思えてしまうような、心にしみ込んで来る声です。
それでも、その女性はまだ警戒を緩めぬまま、少したどたどしいミッド語で『あの男は……どこですか?』と問いました。
当時まだ「長老」になって三年目のハドロは、『あなたは昨日の夕方、向こうに見える小型艇に乗ってここへやって来たが、あれに乗っていたのは、最初からあなた一人だけだった』ということを、今度は先程よりももう少しゆっくりとした口調で説明しました。もちろん、相手がミッド語にあまり堪能ではないと知った上での配慮です。
「では……ここは? と言うか……あなたたちは?」
そこで、ハドロはまた穏やかな口調で、自分たちが遺跡の発掘などを生業とするスクライア一族であることや、自分がその「総責任者」であること。また、ここがクレモナにも程近い無人世界であることなどを、女性に語って聞かせました。
すると、その女性はしばらく呆然と天を仰いでから……ふと膝を抱えてうずくまり、声を押し殺して、さめざめと泣き始めました。
おそらく、『自分は捨てられたのだ』と理解したのでしょう。まったく、ヒドいことをする男もいたものです。
やがて、女性はふと何かを思い出したかのように慌てて自分のトランクのロックを開放し、一番上から何か便箋のような紙を一枚、取り上げて黙読すると、いきなり何処からともなく火を放ち、その紙を一気に焼き払いました。
「それは……炎熱変換資質かね?」
ハドロが少し驚いたような声を上げると、女性はやや恥じらい気味にこう答えます。
「私の魔力量はとても小さいので、できることと言ったら、この程度ですが」
燃え尽きた灰が固い地面の上に落ちると、女は素早く靴を履いて、その灰を踏みにじりまし
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