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それは双六だ
第六章
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 ある日だ、虎次郎はプロ野球選手になった時にその職業のイラストを観ていささか不機嫌になって言った。
「長嶋だな」
「そうね」
 妻もそのイラストを観て答えた。
「どう観ても」
「野球なら長嶋か」
 その不機嫌そうな顔でさらに言った。
「巨人のユニフォームで」
「ここ大阪なのに」
「これは止めろ」
「本当にそうね」
「巨人だけじゃないんだぞ」
 野球はというのだ。
「そして選手もな」
「あの人だけじゃないわね」
「引退してどれだけ経ってるんだ」
「もう監督さんでもないし」
「それでも長嶋なんてな」
 イラストのプロ野球選手はというのだ。
「ないだろ」
「それは言えるわね」
「全く、プロ野球選手になるのもいいが」
 それでもというのだ。
「これは嫌だな」
「あなたとしては阪神ね」
「田淵だ、いや長嶋ならな」
 イラストが彼ならというのだ、太い眉に濃い髭でバットを持っているその姿は誰が目にしてもだった。
「村山だ」
「あの人ね」
「そうだ、じゃあ心だけな」
「村山さんになって」
「それでやるな」
 こう言うのだった。
「これから」
「それじゃあね」
「まあそう思いながらやるのもな」
 あらためて話した。
「人生ゲームいや」
「この双六の面白さね」
「そうだな、双六も工夫でな」
 それ次第でというのだ。
「こんなものにもなるな」
「凄い進化よね」
「全くだ、じゃあな」
「これからもね」
「やっていくぞ」
「そうするわね」
「今度はどんな人生になるか」
 ボード上でのそれがというのだ。
「楽しみだな」
「薔薇色人生かオンボロ人生か」
「CMでも言ってるな」
「テレビのね」
「どっちになってもそれが人生だ」
「人生は双六でもあるわね」
「ああ、そうしたこともわかるな」
 ルーレットを回しながら話した。
「面白い双六だな」
「人生ゲームはね」
「それをやって楽しんで」
「頭の体操もして」
「ぼけない様にもするか」
 自分達が年老いていることからも話した。
「そうするか」
「そうね、こうして遊んでぼけないならね」
「それに越したことはないな」
「そうよね」
「ぼけたらな」
 その時はというと。
「もう遊べないぞ」
「この双六もね」
「やればやる程ぼけないんだ」
「だったらやらないとね」
「ああ、これからも二人で」
 それでというのだ。
「やっていこうな」
「そうしましょう」
 二人で話した、そしてだった。
 夫婦で申請ゲームを楽しんでいった、やがて自分達で最新版も買って遊ぶ様になった。それは昭和から平成になり二人がそれぞれ九十を超えて天寿を全うするまで続いた。無数の人生の双六を楽しんだのだった。


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