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ニレの若木
第二章

[8]前話
 ハーデスはすぐにプロテシラオスの魂を冥界から出して像に入れた、そうすると像はすぐに動きだしてだった。
 家に戻っていたラオダメイヤにだ、笑顔で語りかけた。
「ゼウス様とハーデス様の恩情によってだ」
「像になのね」
「魂を入れてもらった」
「そうしてもらったの」
「だから少しの間な」
「ええ、一緒にいられるわね」
「それが出来る、では共にいる時間を楽しもう」
 夫婦で笑顔で話してだった。
 そのうえで水いらずの時間を楽しんだ、そしてその時間が来るとだった。
 夫は今度は冥界で会おうと笑顔で告げてだった。
 像は動かなくなった、ラオダメイヤはその像を愛し気に撫でて満足した顔と声で言った。
「これでもう思い残すことはありません」
「そうか」
 立ち会っていたヘクトールは彼女の言葉に頷いた。
「これでいいのだな」
「はい、それでは」
「これでだな」
「あの人のところに向かう準備に入ります」 
 こう言ってだった。
 ラオダメイヤは死の床についた、そしてそのまま満足した顔で永遠の眠りに入った。
 ヘクトールはラオダメイヤを彼女の夫が眠る墓の隣に葬った、すると。
 二人の墓の傍に一本のニレの木が芽吹いた、その木は忽ちのうちに高く伸びて墓を覆いそのうえでだった。
 トロイアの高い城壁を見渡すまでになった、ヘクトールはギリシアとの戦いの中その木を見て周りに話した。
「これはまさにな」
「はい、あのお二人の木ですね」
「プロテシラオス殿とラオダメイヤ殿の」
「お二人の木ですね」
「間違いなく」
「そうだ、二人の想いがだ」
 夫婦のそれがというのだ。
「一本の木になったのだ」
「そうなのですね」
「お二人の愛が」
「そのまま」
「素晴らしい木だ、そして二人の想いもな」
 ヘクトールはさらに言った。
「何と素晴らしいものか、戦いはどうなるかわからないが
「それでもですね」
「この想いは大事にしたいですね」
「これからも」
「何があってもな」
 こう周りの者達に言った、そしてだった。
 トロイアが滅びこの街から落ち延びた者達は果たしてニレの木がどうなったのかと心配になった、だが。
 その木がトロイアが陥落し燃えた後で新たな若い木が生えてきたと聞いて喜んだ、その木こそが夫婦の愛の証であると知っているからこそ。そして愛は国が滅んでも残るということでもあることをこのことからも知って尚更喜んだという。


ニレの若木   完


                   2023・6・14
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