第三章
[8]前話
「二人共お似合いだね」
「そうですか?」
「私達は」
「同じ木のカムイだしね」
このこともあってというのだ。
「結婚したらどうかな」
「そうですか、僕達は」
「夫婦になるべきですか」
「そうしたらいい子が生まれるよ、そうだ」
ここでだ、火のカムイは。
閃きが出たと感じた、それではっとなってこんなことも言った。
「君達の結婚を僕が仲立ちして」
「そうしてですか」
「そのうえで、ですか」
「二人の間に生まれた木と木の子供に火の温もりが入れば」
そうすればというのだ。
「人間になるね」
「あっ、そうですね」
「木はそのままですと硬いですが」
「そこに温もりが入れば」
「柔らかくなりますね」
「そうなるよ、そこに僕達の心もそのまま宿るから」
カムイとカムイの間に生まれた子はというのだ。
「だからね」
「人間ですね」
「そうなりますね」
「きっとね」
カムイの従兄妹達に笑顔で言ってだった。
二人を結婚させた、そうしてだった。
この時祝福として自分の火の力をこれから生まれて来る子供に与えた、するとだった。
そこから最初の人間アイヌの祖であるアイヌラックルが生まれた。ここから人間が世に出た。カムイ達はそれを果たした火のカムイを讃えた。
「よくやった」
「見事なものだ」
「これで人間も世に広まる」
「全てはそなたのお陰だ」
「いや、それはイチイとハルニレのカムイ達あってのこと」
火のカムイは他のカムイ達に笑顔で話した。
「だから讃えるのなら」
「そうか、あの夫婦か」
「彼等を讃えて欲しいか」
「彼等があってこそなのだからね」
火のカムイは明るく笑って話した、そしてカムイ達がこの話を人間達に伝えると彼等はこの二つの木を自分達の祖としてずっと大事にする様になった。アイヌに伝わる古い話である。
アイヌラックル 完
2023・8・11
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