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第四十話 憧憬その十

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「失いたくないわ」
「そうだね」
「だから最後の最後までね」
「言うね」
「そして止めて」
 そのうえでというのだ。
「死なせないわ」
「そうするね」
「そう決めているわ」
「僕もそうするよ」
 自分からだ、牙暁は申し出た。
「彼の夢の中でね」
「止めてくれるわね」
「彼の決意は強くて言ってもはぐらかされるけれど」
 それでもというのだ。
「僕もね」
「若しかしたら」
「彼も心変わりするかも知れないからね」
「運命はね、変わるかも知れないから」
「そう思えてきたからこそ」
「全力でね」
「彼も説得して」
 そうしてというのだ。
「考えを変えてもらおう」
「そして皆でね」
「この戦いを終わらせよう」
「そうしましょう、ただこのことは」
 庚は表情を消した、そしてこうも言うのだった。
「天の龍も同じね」
「うん、彼を友達だと思っていてね」
 牙暁はこのことについても答えた。
「そしてだよ」
「何とかしたいと思っているわね」
「彼も同じことを考えているよ」
「ええ、わかってるわ」
 庚は眉を顰めさせて答えた。
「馬鹿なことよ」
「彼を馬鹿と言うと」
「わかっているわ、二人共よ」
「そういうことだね」
「そうすることはないのよ」
 庚は自分が見立てていることを話した。
「二人以外の誰も望んでいなくて」
「彼女もね」
「私はあの娘に会ったことはないけれど」
「会ってみる?紹介するけれど」
「いえ、いいわ」
 このことは少し自重する笑顔になって答えた。
「私が彼女に会う資格はね」
「ないんだね」
「彼と一緒にいて大事に思っているから」
「彼女も彼を今でもそう思っているよ」
「けれどよ」 
 それでもというのだ。
「彼女は人間が好きね」
「うん、そうだよ」
「私はその人間をね」
「そういうことになっているね」
「その私が会うことは」 
 それはというのだ、庚は自嘲の笑みをそのままにしてそのうえで牙暁に対して語っていくのだった。
「値しないわ」
「彼女にだね」
「ええ、だからいいわ」
「じゃあね」
「ええ、けれどあの娘もなのね」
「そう考えているよ」 
 牙暁はまた答えた。
「そうね」
「やっぱりそうね」
「二人が死なないで」 
 そしてというのだ。
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