第三部 1979年
曙計画の結末
甦る幻影
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まりが感じられた。
ユルゲンの悩みは、今日でいう心的外傷後ストレス障害、PTSDである。
心的外傷後ストレス障害は、神経症性障害の一つである。
戦争など、死の危険に直面した後、その体験の記憶が自分の意志とは関係なく思い出される。
時として悪夢に見たりすることが続き、不安や緊張が高まったり、辛さのあまり現実感がなくなったりする状態である。
その様な体験は一過性で、多くの場合は数か月で落ち着く場合が多い。
だが一部には時間がたつごとに悪化したり、突如としてその症状が出る場合もある。
厚生労働省の報告によれば、現代日本の総人口の1.3パーセントがかかる病気であり、実にありふれた精神疾患である。
しかし、時代は1970年代。
精神医学も途上で、精神疾患への偏見もあった時代である。
ユルゲンは、この苦しさを誰にも打ち明けられずにいたのだ。
以前マサキが危惧した通り、アルコール中毒の気があった。
それは彼の父ヨーゼフ・ベルンハルトの影響もあろう。
ヨーゼフは、妻メルツィデスとの離婚調停の際に心身を持ち崩し、重度のアルコール中毒になった。
KGBとシュタージによる卑劣な工作によって、父が狂った様を見たはずなのに……
この俺が酒におぼれて、世から逃げようとする何って……
その自責の念も、またユルゲンを苦しめることとなったのだ。
さて翌日。
研究室を訪れたユルゲンは新年のあいさつを済ますと、教授からある人物を紹介された。
「ベルンハルト君、君は空軍出身だそうだね。
一昨年までソ連に派遣されいて、BETAとの実戦経験も豊富だと……」
「はい。
……ですが、今はロシア研究所の留学生です」
「グラナン航空機という会社を知っておるかね」
「先の大戦中から米海軍と懇意な関係にある航空機メーカーですね。
一体、この事と何の関係が……」
すると、椅子に座っていた80を超える老人が立ち上がって、ユルゲンに近づいてきた。
「ベルンハルト大尉殿、どうぞお見知りおきを。
私はグラナンの社長を務めておりますリロイ・ランドル・グラナンと申すものです」
八十老の正体は、グラナン社長だった。
ユルゲンが後で知ったことだが、彼は第一次大戦中、海軍予備士官でありパイロットだった。
そして、コロンビア大学で駆潜艇の講習を受けた経験の持ち主だった。
「いえ、こちらこそ」
社長はマホガニーのパイプを取り出すと、詰めた煙草に火を点けた。
紫煙を燻らせながら、これまでの経緯を説明し始める。
「じつは貴国で鹵獲したミグ設計局のMIG-23試作機を解析したところ、わが社の特許が無断使用されていたのが判明したです。
これは、木原博士が鹵獲したスフォーニ設計局の試作機からも同様の事が判明し
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