第三部 1979年
曙計画の結末
甦る幻影
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ユルゲン以下わずかの機影が、綿のように戦い疲れて引っ返して来る。
戦術機までよろめいているかに見えた。
36機の一個大隊が、わずか4、5機しか戻って来なかったのである。
まもなく、戦略爆撃機による絨毯爆撃が開始された。
これにより、ワルシャワ条約機構軍には撤退する時間が得られ、戦線を立て直すことが出来た。
翌々日の夕方までに全軍は、ヴォロシロフグラードより撤退した。
そのことは、ユルゲンの心に深い傷を負わせた。
あれだけの死闘をして、結局ヴォロシロフグラードも、チェコスロバキア軍団も救出できなかった。
わずかに前線にあった戦闘指揮所を、ドニエプルに下げた位だ。
チェコスロバキア軍の陣地に弔問に行った際に見た、無表情の兵士たちが忘れられない。
互いに言葉もなく、芳名帳に記帳しながら斎場に入った。
本当ならばこの人たちを励ますべきではなかったか。
戦争で、部下が、知人が死ぬのは、今に始まったことではない……
そう己を律しても、心に渦巻く感情は収まる気配がなかった。
先頭に立って、剣を振るい、銃砲を放ち、敵陣を駆け抜けてきても、その気持ちは消えなかった。
死ぬべき筈は俺ではなかったのか……
…………
「……ううむ。う、う、む」
ユルゲンはうなされていた。
「ユルゲン君、ユルゲン君、どうかしたの」
しきりと、自分をゆり起していた者がある。
ユルゲンはハッと眠りからさめて、その人を見ると、マライ・ハイゼンベルクであった。
着ているものといえば、黒絹のネグリジェ一枚だ。
ドイツ人らしく、その下にはブラジャーもパンティーも付けていなかった。
「ああ。……さては、夢?」
全身の汗に冷え、肌着もずぶ濡れになっていた。
その瞳は、醒めてまだ落着かないように、天井を仰いだり、壁を見まわしていた。
「何か、飲む?」
「ありがとう。
ああマライさん、あなただったのか、何か寝言でも……」
「ユルゲン君」
と、マライは声をひそめて、ユルゲンの手をかたく握った。
「ようやくあなたの悩みをつきとめました。
BETAとの戦争で、仲間を、救うべき同胞を見捨てたことを今も人知れず苦しんでいらっしゃる」
「……えっ」
ユルゲンは、おもわずマライの方を盗み見る。
黒のネグリジェの大きく開いた胸元から、乳房のふくらみや谷間がはっきり覗けてしまう。
話すたびに、乳房で張り出した部分が、ゆったりと波打つ。
「隠さないで、それも病を悪化させた原因の一つです。
日頃から、およその事は察していましたが……
それほどまでにお覚悟あって、国のため全てを捨てて、忠義の鬼とならんとする。
そのご意義なら、このマライもかならずお力添えいたしましょう」
その潤んだ瞳には、何とも言えない風情が、情熱の高
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