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冥王来訪
第三部 1979年
曙計画の結末
甦る幻影
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 ユルゲンが、マライ・ハイゼンベルクと共にニューヨークに来て、3ヵ月が過ぎていた。
 マライは、その間の勤務結果が認められ、晴れて陸軍中尉に昇進した。
 マンハッタンのタイムズスクエアで、新年のカウントダウンが始まっていたころ。
彼女は今、ニューヨークのさるホテルにあるレストランで、豪奢なディナーを楽しんでいた。
ユルゲンがマライの事を招き、新年の祝いの酒をごちそうしてくれたのだ。
 マライの姿は、いつになく艶やかであった。 
東ドイツでは着た事もなかった薄い紫のワンピースドレスに、真珠の首飾り。
 対するユルゲンは、ブルックスブラザーズで買った濃紺の2ピーススーツだった。
一応、ニューヨークに来る前に、東ドイツで2着背広を仕立てたが、余りの野暮ったさに、買いなおしたのであった。
「この度の中尉昇進、おめでとうございます。
俺もこれまでマライさんに、色々迷惑をかけてばかりいました。
反省しています」
「もういいのよ」
「しかし、人は見かけによらないんですね。
まさか、こんなに早く留学の環境に順応してくれるなんて……」
マライは照れ臭そうに、セミロングの茶色がかった金髪を左手で梳いた。
 ホテルのガラス窓から、はるか遠くのロングアイランドシティーの灯りが見える。
見下ろせば、箱庭のような街が広がり、行き交う車の灯が、夜空をばらまいたように美しい。
「さあ、今日は大いに飲みましょう。
では、マライさんの昇進と来たる1979年を祝って、乾杯(プロースト)!」
 
 ホテルの部屋に入ると、それまで保たれていたユルゲンの緊張が一気に解ける。
控えの間が付いた大部屋であるが、セミダブルのベットが2つ並んでいた。
 ユルゲンは、着ていたサキソニー織のダブルのスーツを脱いで、浴室に入る。
軽くシャワーを浴びた後、ガウンに着替え、そのままベットへ倒れこむようして眠りについた。 

――――話は遡る。

 1976年12月。
ここは、ウクライナのヴォロシロフグラード(今日のルガンスク)。
前日よりの猛吹雪が地表に吹き付ける中、迷彩柄の戦術機の一群が駆け抜けていく。
 網膜投射上に映し出されたウインドウに現れる、ソ連赤軍の勤務服(キーチェリ)姿の男。
ウクライナ派遣・ワルシャワ条約機構軍の司令官を務めるソ連赤軍大佐は、
「チェコスロバキアの装甲軍団がBETA梯団に包囲された。
東ドイツの同志諸君、ここを死守せねば、リボフに通じる街道が断絶されてしまう。
50万市民とチェコスロバキアの2万の兵が、厳冬の中に孤立するのだ。
光線級の為に航空輸送も心もとない。 
わが社会主義同胞たちを、1941年のレニングラードにしてはいけないのだ!」

 煽動する調子で熱弁を語る男に、ユルゲン・ベルンハルト中尉は冷めた一瞥
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