暁 〜小説投稿サイト〜
古い民宿が続く理由
第二章

[8]前話
「江戸時代からな」
「だからここにずっとあるんだな」
「一見何でずっとあるかわからないだよ」
「不思議に思ってたよ」
 息子も否定しなかった。
「どうしてかってな」
「実はな」
「そんな事情があったんだな」
「そうだ」
 息子に強い声で答えた。
「ごく一部の限られた人達がな」
「お忍びで来てか」
「楽しむんだ、あそこの部屋も温泉も食事もな」
「全部凄いか」
「ああ、ただ値はな」
 それはというと。
「わかるな」
「そうした人達がお忍びだからか」
「そういうことだ、世の中はな」 
 父はさらに言った。
「そうした場所もあるんだ」
「そうなんだな」
 息子はここまで聞いて唸った顔で頷いて応えた。
「そう聞くとな」
「いい勉強になったな」
「俺まだこの街のこと知らなかったんだな」
 父にこうも言った。
「あそこがそうした場所だってな」
「狭い様で広いんだ」
 これが父の返事だった。
「世の中はな」
「だからこの街もか」
「そうだ、もっと言えばな」
 父は今度は小声で囁いた。
「お前ももう知ってるだろ、温泉街というとな」
「ここにはなくてもな」
「近く、ちょっと行くとな」
「車でな」
「そうした場所もあるだろ」
「そうだよな」
「そうしたこともな」
 風俗街のことはオブラートに包んで話した。
「あるからな、そして俺達はな」
「行かない方がいいな」
「ばれるからな、近場は」
「そうだよな」
「ひいひい祖父さんはあそこが遊郭だった時よく行ってだ」
 そうしてというのだ。
「病気にもな」
「なったんだな」
「幸いペニシリンが出てな」
「抗生物質が」
「それで助かったがな」
「そっちの心配もあるし」
「出来たらな」 
 息子に言うのだった。
「ああしたところはな」
「行かない方がいいな」
「そうしろよ」
「そうするよ」 
 彼もそれはと応えた、そして実際にそうした場所には行かなかった。そのうえでホテルの跡を継ぐ勉強をしていったのだった。


古い民宿が続く理由   完


                  2023・10・22
[8]前話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ