暁 〜小説投稿サイト〜
魔法絶唱シンフォギア・ウィザード 〜歌と魔法が起こす奇跡〜
AXZ編
第175話:許して忘れる
[6/6]

[8]前話 [9] 最初 [1]後書き [2]次話
にあると分かったクリスは、身勝手な理由で透から距離を取ってしまっていた自分を恥じた。

「アタシ、馬鹿だ……アタシの所為で透はああなったのに、その事を忘れて透を遠ざけちまった。アタシは、何て事を……」

 自己嫌悪に陥るクリス。しかし航はそれに対して否と答えた。

「それは違う。クリスちゃん、それは違うぞ」
「え?」
「君は何も悪くない。勿論透もだ。だが、一言言われるべきとすればそれは透の方だ。アイツはもっと、自分を前に出していい」

 他人の為に、自分の怒りや苦痛を内側に押し込める。尊い優しさと言えばそれまでなのかもしれないが、しかし行き過ぎた自己犠牲は何も生まない。

「これは君にしか出来ない事だ、クリスちゃん。透に、もっと自分に正直になるように言ってあげてくれ。それが出来るのは世界でただ1人、君だけだ。あの子の目を、少しでもいいから覚まさせてやってくれ」
「おじさん……分かった!」

 今までは、透の事が分からず恐怖すら抱いていたクリス。だが今の彼女には透に対する恐怖心はない。寧ろ今は、これまで距離を取っていた分話したくて仕方なかった。そして彼に、今までため込んでいた自分の本心をぶつけたい。

 そんな事を考えていると、クリスの持つ通信機が鳴った。どうやら何かトラブルが起こったらしい。折角意気揚々と透に会おうとした矢先に起こった出来事に、クリスは不満そうに呻きながら通信に出た。

「もしもし?」
『クリスちゃん? 今すぐ東京駅に向かって! 今透君が、1人でアルカノイズと戦ってるの!』
「ッ! 透がッ! 分かったッ!」

 通信機から聞こえるあおいの言葉に、クリスはカップに残っていた紅茶を一気に飲み干し立ち上がった。その顔に、先程まであった暗さや寂しさは見当たらない。

「ありがとう、おじさん。アタシ、行ってくる! 行って、透と話してくるッ!」
「頼むよ。自分を押さえつけているあの子に、自分と向き合う事の大切さを教えてあげてくれ」
「あぁ!」

 現場に向かうべく、クリスは急いで屋敷から出た。彼女を見送ると、航はもう一度家族3人で写った写真に目を落とす。その視線は、写真の中で優しい笑みを浮かべる澪へと向いていた。

「やっぱり私1人だと、あの子を真っ直ぐ育てるのは難しいよ。だが、あの子は恵まれている。皆に愛され、支えられている。だから澪、これからも安心して、あの子の事を見守っていてくれ」

 航の小さな呟きは、クリスを迎えに来た東野村のヘリのローター音にかき消されるのだった。
[8]前話 [9] 最初 [1]後書き [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ