暁 〜小説投稿サイト〜
魔法絶唱シンフォギア・ウィザード 〜歌と魔法が起こす奇跡〜
AXZ編
第175話:許して忘れる
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の話ではこうだ。澪は実家の前妻の子であり、再婚してやって来た後妻とその連れ子から酷い虐めを受けていた。家には居場所らしい居場所がなく、虐げられ続ける日々。航と結婚したのも、実家から半ば売られたような形だったと聞く。

 そんな経緯での結婚だったから、航も最初は澪に対して愛情など抱いていなかった。所詮家同士が勝手に決めた婚約だったし、当時の航にとって重要だったのはヴァイオリンしかなかった。

 冷めきっていた筈の結婚生活。しかし、予想に反して澪と結ばれてからの航は徐々に彼女に惹かれていった。

「最初は、実家で虐められて売られた様に嫁いできたと聞いて、澪に対しては何も期待していなかった。だが、彼女の優しさは私を大きく包んでくれた」

 実家で酷い虐めを受けていたと言うのに、澪は少しも暗い雰囲気を身に纏うことなく朗らかに笑い、実家に対する恨み言も何も言わずひた向きに航の事を支えてくれた。そんな彼女の優しい雰囲気に航も徐々に惹かれて行き、気が付いたら彼女の事を心から愛するようになっていった。

 その話の中でクリスが特に興味を持ったのは、澪が実家に対して恨みを向けていなかったと言う部分。後から来た後妻と連れ子が調子に乗って虐めていたと言うのに、その事に対して怒りも何も抱いていないと言うのが信じられなかった。

「何で、おばさんは後妻の事を……」
「私もその事が気になってね。透が生まれる前に一度だけ聞いてみたんだ。そうしたら彼女はこう言ったんだよ。『許して忘れた』……とね」
「許して、忘れた……?」

 航の口から出た澪の言葉を、クリスがゆっくりと繰り返す。それを聞いて航は当時の澪の言葉を鮮明に思い出した。

『私の考えは多分おかしいのかもしれませんね。でも、誰もが自分にされた酷い事に怒って恨んで、それが繰り返されるだけの世界なんて悲しいじゃないですか』

『だから、私は誰も恨まないんです。誰に対しても怒って恨む人が居るなら、その逆に誰も恨まない人が居てもいいでしょう?』

『でも、誰かを怒って恨んで、それで航さんやこれから生まれてくるこの子を不安にさせるくらいなら、許して忘れた方がずっといい』

『きっと、私のこの考えは誰にも理解されず、おかしい考えなのかもしれませんね』

 そう言って何処か儚く笑った澪の笑顔に、後ろ暗い所など微塵も感じられない。彼女は心の底から誰の事も憎まず恨んでいないのだ。それが眩しくて、航はその時の事を鮮明に覚えていた。

 航から澪の言葉を聞き、クリスは難しい顔になりながら首を横に振った。

「アタシには、分かんないです」
「だろうね。私も正直、彼女の考え自体は理解できなかった。だが、それがあったからこそ彼女はあそこまで優しかったし、透も彼女に似て優しく育ったのだろう」
「…
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