第1章 血塗られた聖女
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君は、呆然とした表情で、はっきりと私に向かって声を絞り出すように言った。
「弓子……君は、ぼくの母さんを……。」
今私が手にかけた女が中島君のお母さん!? そんな…そんな…
重すぎる犠牲を強いられたわたしに向けて発せられたそれは、間違えようのない非難の意志表示だった。愛する彼の
激情に流されるまま口をついて出たその言葉は、家族を失い、彼によりどころを求めようとしたわたしの心を後悔と
罪悪感と喪失感でさらに深く引き裂いた。
「嘘よ! そんなひどいことってないわ!」
中島家を飛び出したわたしが、半ば無意識のうちに小原の後を追っていたのは、かろうじて憎しみだけが今の自分を支えられるものだということを、本能的に知っていたせいなのかもしれない。わたしは、涙にぼやけた視界の中に、
小原の姿をとらえていた。
小原「下手な同情は身を滅ぼすよ。ご覧、この指を。お前の家族の血の匂いが、まだ残っている…」
弓子「やめて!」
蘇我の森。暗緑色の沼のほとりで、わたしは、躊躇いながらも、小原の挑発に血が登り命を奪ってしまう。その時、不覚にも両目に魔性の毒液を浴びせられてしまう。刺すような痛みとともに混濁するわたしの視界。
セトは現実世界に降臨する為の受肉の器を、小原の胎内(なか)に息づくロキの子と定めた。彼女の腹を裂いて
飛び出したスライム状のそれはさらなる実体と力を得ようと、高濃度の生体マグネタイトを宿すわたしの身体に淫らな欲望の目を向ける。
家族を失い、中島君の母を手にかけた上、彼の呵責(かしゃく)の言葉で心に深い傷を負ってしまい、あまつさえ
小原先生をも殺めてしまったわたしはろくに反撃できず、今の自分の心そのもののようにどろどろとした感触の「それ」に取り込まれてしまう。
服が溶けていくのが分かる。わたしの身体を包み、貪り愛撫するそいつの感触は、かって十聖高校で味わったロキのそれのように、おぞましくも甘美な感覚を伴っていた……。
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