第二章
[8]前話
「ちゃんと食べられて」
「服もあって」
「住むところもあって」
「やっていけてるわね」
「北朝鮮みたいでもないしね」
息子はこの国のこともよく話した。
「お金があっても幸せとは限らないし」
「北朝鮮みたいじゃないとか」
「いいのね」
「うん、あんな国にいたら」
それこそというのだ。
「どうしようもないよ」
「食べものだってないしな」
「全然ね」
「餓え死にしてるしな」
「他のものだってないし」
「充分だよ、貧乏でもいいよ」
ここでも笑顔で言うのだった。
「それに借金だって返せるよね」
「それはな」
「まだあるけれど」
両親もそれはと答えた。
「お祖父ちゃんお祖母ちゃんも頑張ってるし」
「安心するんだ」
「ずっとじゃないしね、いいよ」
息子は笑顔で言うのだった、そして貧しいながらも一家で幸せな生活を送っていった。やがて借金がなくなると。
一家は普通に暮らせる様になった、そして新太は高校生になった時に家に帰ってパートから帰って家マンションに引っ越してそこで家事をしていた彼女に話した。
「清原さん警察に捕まったらしいよ」
「やっぱり悪いことしてたのね」
「学校でクラスメイトが話してたけれど」
それで知ったがというのだ。
「脱税に覚醒剤の密売に」
「お金はそれであったのね」
「恐喝とか色々ばれて」
「捕まったのね」
「奥さんもね」
「そうなのね」
「お金あっても悪いことばかりしてお家じゃ喧嘩ばかりで」
そうした状況でというのだ。
「嫌われて挙句捕まるなら」
「元も子もないわね」
「全くだよ、それでカレーの匂いするけれど」
「シーフードカレーよ」
「あっ、僕の好きな」
「お父さんも好きだしね、じゃあ皆でね」
「食べようね」
新太は笑顔で応えた、そして自分の部屋で着替えて授業の予習復習をした、奇麗な部屋で新しい服を着て机に座る彼は今も幸せだと感じていた。貧しかった頃からそうだと。
貧乏でも幸せ 完
2023・10・16
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