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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第二十六話 陪臣達の宴
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 一間五尺の小柄な体で長身の騎兵将校である供駒中佐と並んでいる富成は無愛想に答える。元々は叛徒であった弱小将家の当主であり、龍火学校で豊久を厳しく鍛えた教官である。
「ははは、確かに、随分と辛口の考課表をいただきましたが。」
 思い出しただけで笑みが引き攣る、割と情け容赦の無い教官だった。
だからこそ駒州公子に気に入られたのであろうが。
「手を抜くのは良いが、お前はそれが下手過ぎる。下士官に任せる方が良いのに何でも自分でやろうとしていたからな」
 遠慮なく古傷を抉られている主賓だったなにかを見かねたのか鍬井大佐が助け舟を出す。
「だが、北領では崩れかけた大隊を上手く取り纏めていたじゃないか。中尉時代とは随分変わっただろう」
「どうでしょうかね。まぁ、大尉の時に二年ばかり彼方此方で面倒事に首をつっこんで回っていましたからね。如何に自分が頼りない存在かを知る経験は積みましたよ」

「君の場合は直属の上官がアレだったからな」
鍬井がそう云って笑う中で杯を傾けながら益満大佐がぼそり、と呟いた。
「経験を活用出来るのならば、それで十分マトモだ。
中には教本通りの工夫の欠片も無い行動しか執れない理屈倒れの馬鹿も居る。
そうした奴に限って幕僚に頼る事をしない。間違った場面でもその論理に従う。
失敗したら自分ではなく教本の責だとでも言うのか!」
酔いが回っているのか鬱憤が溜まっているのか普段とは違い乱暴に器を机におく
「何処にでも居ますよ、その手の人間は。
私の世代では責められないし、そのままであって欲しかったですけれど」
 そういいながらも豊久は苦笑いする。
――若菜は論外としても実際、実戦経験が無い将校はその手の問題を抱えた奴が多い。この二十五年間、まともな戦争が無かったからだ。
「確かに、机上でしか戦えない者も多かったのだ、机上の空論に陥る者を責められない。
だからこそ、大佐殿の言うとおり、学べぬ者は責められるべきなのだ。我々が兵の命と国の興廃を背負うのだから」
富成は理知的な態度を崩さずに杯を再び空ける。
「それは分かっていますよ。
戦争が始まった以上は学び、戦う必要がある事も。」
 弟子は黒茶で唇を湿らせ、溜息をつく。
「ですが、対策は極論すれば訓練の激化と前線送りだけですからね。金も人材も大量消耗します、まさに戦争ですな」
 かつて、ささやかながら学んだ事を思い出す
 ――戦争などするものではない。大量の消費と技術開発が見込めるとしても、血を流して得た物に国は、大衆は固執する。以前の己の国だったものを鑑みれば分かる。
 ――だが、国が自由を謳歌するには軍事力が必要なのも確かだ。二度目の大戦の理由を考えれば分かりやすい。血を流し、勝ち得た権益の危機。全てを奪われ、困窮した国が選択した現状打破の為の総力戦。
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