第二部まつりごとの季節
第二十六話 陪臣達の宴
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おり、その分類ももう役に立たないが。
「おい、それより貴様、<畝浜>に乗ったそうだな。あの熱水機関、どうみた?
俺は最初から熱水機関は輸送船から試すべきだと言っていたのだ。そうすればあんな無益な溺死者も――」
「フゥ・・・」
溜息をついて豊久は相伴相手を観る。
相手は水軍の久原少佐と云った。酒が入っているらしく、日と潮に焼かれている事を差し引いても顔が赤い。延々と畑違いの相手に愚痴だか持論の展開だか良く分らん話をしている。
――東海洋艦隊の人だったかな?権門意識も薄いし悪い人じゃないと聞いているが――
「済まないね。この人は転進作業の時に船上から何人も溺れ死ぬのを見ているんだ」
同期らしい同じ水軍の軍服を纏った男が隣に座りひそひそと囁いた。
「そんなに酷かったのですか?」
「少なくとも、千人は亡くなったらしい。
海が荒れていた上に真冬だったからな、運荷艇がひっくり返ったらまず助からない。
――君も苗川を利用したのだ、分かるだろう?見かねた笹嶋が無理に救命艇で運ぶ要請を出した程だ。詳報でははっきり書いていなかったが、他の艦では渋った艦長も居ただろうよ」
暗い顔をして頭を振った。
――そこまでする程、酷かったのか。
荒れた海で救命艇を出させる命令への反発は門外漢の豊久にとてぼんやりとだが想像できた。
「まぁ、何だ。君も一応は、水軍中佐なのだ。
これからはより一層宜しく頼むよ。」
にやりと――笑った。
「あの――失礼ですが――」
「あぁ、これは失敬! まだ名乗っていなかったな。
――駒杉和正、水軍中佐だ、都護陸兵団の大隊長をやっている。
今後ともヨロシク。」
そう言って円卓に残っていた洋餅を丸齧りした。
「ははは、私は前線行きですから。
当分は顔を忘れないでいただくだけで十分ですよ。
馬堂豊久、本業は〈皇国〉陸軍砲兵中佐です。よろしくお願い致します」
そう言って久原少佐の方を見ると同じ水軍組二人を捕獲していた。
――やっぱり絡み酒かよ。
「それは御愁傷様。――彼は俺が相手しておくよ。
君と話たがっている連中も多かろう」
「それでは御二人とも、またいずれ」
会釈をして離れると僅かに喧騒から外れた年長組の円卓へと向かった。
益満大佐に鍬井大佐、供駒中佐、そして珍しい事に正式には駒州陪臣団ではない富成中佐までいた。
駒州軍の参謀組かな?益満大佐は近衛総軍だが。
この席に座っている人は皆、階級が上か先任で年上と、急な昇進を果たした身である豊久としてはある意味で気が楽な場所であった。
「お久しぶりです、皆様」
「おや、貴官の愛弟子じゃないか、富成」
供駒中佐は豊久が近寄るのを見て隣の同僚へ話しかける。
「愛弟子? 手間は掛かったが愛なんぞかけた覚えは無いな。」
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