第130話『なりたい自分』
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「お父さんお母さんって……」
ふと漏らした狐太郎の呟きを晴登は聞き逃さなかった。
そしてすぐに彼の向く方向を見ると、確かに教室の外からこちらを見ている男性と女性がいる。しかし気づかれたとわかるや否や、彼らはそそくさとその場を去っていった。
狐太郎の両親といえば、今は海外にいるという話だったが、いつの間に帰って来たのだろうか。それとも狐太郎の様子を見に、わざわざ文化祭に来たのだろうか。
「だったら逃げることないのに……」
「僕と顔を合わせるのが気まずいんだろうね。別に来なくていいのに」
狐太郎の反応が珍しくドライである。彼にとって両親は狐太郎の病気から逃げた薄情者だから、相当嫌っているようだ。
実のところ、晴登も狐太郎の両親は悪者だと思っていた。病気の治療のためというのは建前で、逃げるために海外に行ったという狐太郎の主張を信じていた。けど、狐太郎の両親をこの目で見て、
「本当に悪い人たちなのかな……」
遠目で見てもわかるぐらいに彼らはやつれていた。表情も暗く、元気もない。それでも、狐太郎を見る顔には驚きと安堵の色が浮かんでいた。
彼らも苦労したのだろう。そして同時に後悔もしたはずだ。理由が何にせよ、息子を置いて行ってしまったことには変わりないのだから。もしかすると、今日はそのことを謝りに来たのかもしれない。狐太郎の言う通り、今は気まずくてついこの場から離れてしまったとしても、狐太郎と話すタイミングをまた窺ってるだろう。
それなら、友達として一つお節介を焼くことにする。
「ちょっとあの人たち連れ戻して来るね」
「えっ!? いいよ、わざわざそんなこと……」
「じゃあ後で会いに行くの?」
「それは……」
予想通り晴登のお節介を断る狐太郎に、少し意地悪な返しをしてやった。彼にはそもそも両親と会う気も話す気もない。だからこそ、晴登がこうして代わりに動こうとしているのだ。
「三浦君は知ってるでしょ。あの人たちが僕に何をしたか……」
「知ってるよ。でも向こうから来てくれたんだ。これはチャンスだよ」
「チャンスなんかじゃないよ。もう会いたくない」
「──そうやって、いつまで逃げるの?」
「……は?」
いつまでもウジウジしている狐太郎を見て、ちょっと口が滑って本音が出てしまった。だが取り繕いはしない。最初から、いつものように絆して説得できるとは思っていないのだ。
「僕は別に逃げてなんか……!」
「逃げてるよ。そしてこれからも逃げようとしてる。いつになったら両親と向き合ってあげるの?」
「……っ、三浦君には関係ないだろ!」
「あるよ!」
「っ!」
痛いところを突かれ、狐太郎
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