第130話『なりたい自分』
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」
最悪の場合まで想像してしまったが、杞憂に終わって本当に良かった。
それはそれとして、そんな嬉しいニュースは早く狐太郎に伝えなければ。
「狐太郎君はあなたたちが逃げたと言っていましたが、やっぱりそんなことはなかったんですね」
「……いや、逃げたさ。それは間違いじゃない」
「え……?」
「少し、昔話をしようか」
彼らが海外に行ったのは、確かに病気を調べるためだった。しかし、『逃げた』という狐太郎の言い分は否定しない。
その詳細を晴登に伝えるべく、狐太郎の父親はそう切り出した。
「実は狐太郎のあの耳と尻尾は生まれつき生えていた訳じゃないんだ」
「え?」
「正確には6歳……小学校に入学したすぐの頃だった。朝起きたら狐太郎にあるはずのないものが生えていて、そりゃびっくりしたよ」
狐太郎の父親は苦い過去を思い返すように語り始めた。
「その異常事態に私たち大人は何とか順応できても、子供はそうはいかない。小学生のいじめの理由なんて些細なものだ。自分と見た目が違う、ただそれだけで石を投げることができる」
狐太郎がいじめられていたという話は聞いていたが、やはり見た目によるものだった。いじめなんて絶対にあってはならないというのに、そんな単純な理由で横行されてはたまったものではない。
「私たちだって、狐太郎を守ることに尽力した。それで小学校は何とか乗り切ったんだが……」
「……」
「中学校の話を出すと当然狐太郎は拒んだ。狐太郎にとって、学校はいじめられる場所でしかなかったから。でも学校に通うのは義務だ。私たちは何とか説得しようとしたが、そこでメンタルが限界を迎えてしまったんだろう。そして──」
彼らはその続きを言う代わりに、袖を捲る。そこには獣の爪で抉られたような、深い傷跡が残っていた。
「これは、その時狐太郎から受けた傷だ」
「「嘘っ!?」」
その言葉を聞いて晴登は驚きの声を上げる。しかし、その声は1つじゃなかった。
振り返ると、晴登よりも狼狽している狐太郎の姿があった。いつの間にか晴登を追いかけて来ていたようだ。
「……聞いてたのか」
「その傷、本当に僕が……?」
「その様子だと、やはり覚えていなかったようだな。本当にすまなかった。お前からすれば、訳もわからず置いていかれたと思ったことだろう」
狐太郎からそんな話を聞いたことはなかったが、彼からしても初耳だったらしい。
あんな傷跡、狐太郎が付けたとはとても思えないが、やられた側がそう言ってるのだから、きっとそれが事実なのだろう。
「だがわかってくれ。あの時は、ただただ怖かった。今でも時折この傷が疼くくらいには、まだ記憶に
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