第九十六話 ラッキーナンバーその十
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「一体」
「もう年齢で引退してるわ」
「そうなの」
「無事にね。それで若い人達を育ててるわ」
「怪我なく引退出来てよかったわね」
「本当に生きるか死ぬかの世界だからね」
闘牛士の世界はというのだ。
「冗談抜きでちょっと間違えたらね」
「死ぬわよね」
「奇麗な服着てマントたなびかせてね」
紅のそれをだ、尚牛は殆どの哺乳類がそうである様に色彩感覚はなくマントの色ではなくそれがたなびくのに反応しているのだ。
「ひらりひらりと牛の突進をかわして」
「かわしざま剣を刺していく」
「それを徐々に繰り返して倒す」
「大勢の観客の中でね」
「華やかで人気があってね」
スペインではというのだ。
「報酬も凄いけれど」
「いつも死と背中合わせね」
「そうよ、エスカミーリョさんだってね」
ビゼーの代表作でありあまりにも有名な歌劇カルメンに出て来る闘牛士である、まさにその通りの闘牛士というアリアも有名である。
「何時死ぬかね」
「わからないわよね」
「だからカルメンに惚れられてもね」
「受け入れていたのね」
「この人は若し振られても」
カルメンからだ。
「受け入れてたでしょうね」
「生きるか死ぬかだしね」
「その世界にいるから」
闘牛士としてというのだ。
「それでね」
「カルメンに振られても」
「それで終わって」
「また新しい恋に生きてたのね」
「どうもそうした世界にいる人ってね」
明日の命もわからない、そうしただ。
「こうしたことってサバサバしてるみたいね」
「そういえばエスカミーリョさんって」
一華は歌劇を観て思ったことを話した。
「そんな人よね」
「そうでしょ」
「けれどホセさんはね」
ドン=ホセこの歌劇のもう一人の主人公だ、カルメンに惚れられそして捨てられ最後は復縁を望んだが拒まれ逆上して彼女を殺してしまうのだ。
「そうじゃなかったからね」
「あの人は普通の人でね」
「サバサバしてないのよね」
「伍長さんだけれど」
騎兵隊所属である。
「けれどね」
「兵隊さんも戦争になったら生きるか死ぬかだけれど」
「戦争じゃないとね」
「普通の暮らしだし」
「だからね」
そうした境遇だからだというのだ。
「特にね」
「エスカミーリョさんみたいにサバサバしてなかったわね」
「あの人はね」
「だからああなったのよね」
「軍隊脱走してカルメンさんと一緒になって」
「カルメンさんに振られて殺して」
「最後は殺人犯ね」
カルメンは恋愛劇であるだけでなく一人の人物の転落戟でもあるのだ、それをビゼーは見事な音楽で描いてみせたのだ。
「酷いお話よね」
「そうよね」
二人で話した、だが。
スペインの娘はここで一華に強い声でこう言った。
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