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優しき母
第二章
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 広虫はそれからも多くの孤児を助けてだった。
 育てていった、それは都だけでなく天下の国々に及んでだった。
 多くの者を自分達の子として育てていった、育てられた者達は葛木の姓を貰いそれぞれ生きていったが。
 そのうちの一人が友に話した。
「わしが今あるのは全てな」
「広虫様のお陰か」
「そうだ」 
 こう言うのだった。
「あの方に拾って頂きな」
「育てて頂いたからか」
「今こうして生きている」
 友に話した。
「この世に色々な慈愛を見せる人はおられるが」
「広虫様の慈愛はか」
「これ以上はないまでのものだ」
「それでそなたも助けられてだな」
「他にも多くの者がな」 
 孤児達がというのだ。
「育てられた、まことにな」
「広虫様の慈愛はか」
「本朝に比類のないものだ」
 こう言うのだった、その広虫が弟の清麻呂が道鏡のことで帝から罪を言われ流された時共にそうされたが誰もが彼女の無事を願った。
 やがて帝が崩御され次の光仁帝の御代になると弟と共に罪を赦され再び朝廷に戻ったが。
 帝は太子後に桓武帝となられる方に言われた。太子は毅然とした端整な顔立ちであられ帝は穏やかであられる。
「広虫であるがどう思うか」
「真の御仏の教えを備えた者かと」
 太子はこう答えられた。
「まさに」
「戦乱の時も多くの者の助命をしてな」
「救っております」
「それにだ」
 帝は玉座から言われた。
「あの者は誰の悪口も言わないな」
「確かに」
 太子もその通りだと答えられた。
「聞いたことがありませぬ」
「しかも貞順で節操もだ」
「備えています」
「あの者は誰も悪いことも言わず」
 そしてというのだ。
「弟の清麻呂ともな」
「仲がよいですな」
「誰とも争うことがない」
「まさに真の徳の持ち主であり」
「御仏の教えを進めておるな」
「全くです」
「そうした者だからだ」
 帝はさらに言われた。
「多くの子を助けられるのであろう」
「孤児達をですか」
「それが出来るだけの徳がありな」
「それでさらに動く」
「素晴らしい者だ、あの様な者がいることをだ」
 太子に言われるのだった。
「朕達は覚えておかねばな」
「はい、まことに」
 太子も頷かれた、そしてだった。
 広虫が多くの子達を救っていることを讃えられた、多くの孤児を救うにはまずは徳が必要でありその徳をさらに活かした広虫こそはまさに御仏の教えを備えた者だとだ。
 和気広虫のことは今はあまり伝わっていないという、だがこうした人物がいたことは覚えておくべきであろう。彼女が助けた孤児達そして戦乱から助命された者達もいたことを。これもまた歴史である。


優しき母   完


                  2023・3・
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