第一章
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優しき母
平城京は繁栄していた、だがその繁栄に陰があるのは何処でも常である。
親のない子達もいた、それを見て心を痛める者がいたのは幸いであった。
和気広虫、丸く穏やかな優しい顔立ちで宮中に仕えている女官の一人である彼女は孝謙帝に慎んだ態度で言った。
「都の孤児達を引き取って宜しいでしょうか」
「引き取ってどうするのですか」
帝は広虫に尋ねられた。
「一体」
「はい、私が夫と共に育て」
広虫は帝に畏まった態度のままさらに言った。
「そしてです」
「成人させるのですね」
「はい、そう考えています」
「ではそなたが親になる」
「夫と共に」
「そうするのですか」
「親のない子を助けるのもまた御仏の教えでしょう」
広虫はこうも言った。
「人を助ける、慈悲は」
「その通りですね」
帝もそれはと言われた。
「そなたの言う通りです」
「はい、それでは」
「そなたに任せます」
帝は確かな声で言われた。
「全ては」
「はい、それでは」
広虫は帝に応え即座にだった。
都の孤児達を集め自分が用意した家に住ませて服に食事を与えてだった。
育てていった、そうしてだった。
多くの子達が育っていった、彼等は成人してから口々に言った。
「広虫様に救われた」
「あの方に拾って養って頂いてそうなった」
「私達が助かったのはあの方のお陰だ」
「孤児の我等を救って頂くとは」
「あれ程よい方はおられない」
「御仏の様な方だ」
「我等の母君だ」
こう言って心から感謝した、だが。
広虫はそうしても全く奢らず戦乱の後で帝に逆らった者達についてもだ。
「どうかこの度はです」
「その者達の命はですか」
「はい、帝のお慈悲を以て」
そのうえでというのだ。
「お助け頂く様」
「それも御仏の教えですね」
「はい」
まさにというのだ。
「それによります」
「そなたは既に多くの子を助けています」
帝は広虫のそのことを言われた、細面で鋭利な感じのお顔立ちは広虫とは好対照であられる。その目の光も実に強いものであられる。
「そこにさらにですね」
「お願いしたいです」
「無闇な血は朕も避けるところ」
帝は冷静な声で言われた。
「確かに罪人は断ずるべきですが」
「それでもですね」
「今言った通り無闇な血は避けるものであり」
帝はさらに言われた。
「慈悲も政にはなくてはなりません」
「その通りです」
広虫もこう述べた。
「そして血の穢れもです」
「避けるものであり」
「私としましては」
「御仏の教えをですね」
「お願いしたいです」
「他の者が言えば朕も考えました」
帝は深い思慮のある声で言われた。
「どうすべきかと。ですがそ
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