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楓の人さらい
第二章

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「あの泉を作ってるんだよ」
「だからあの泉の水面には楓の葉があったのですね」
「そうだったのですね」
「それで秋になると山全体が楓の葉で赤くなるからね」 
 老婆はさらに話した。
「紅山って呼ばれてるんだよ」
「そうだったのですね」
「あの山は」
「それで人間から嫁を迎えているけれど」
 それでもというのだ。
「木の精と人間じゃ寿命が違うだろ」
「ですね。何百年とか千年生きるのが木の精で」
「人間は七十生きたら凄いです」
「古稀っていう位だからね」
 古来稀というのだ、七十まで生きれば。
「それじゃあね」
「そうですね」
「人間は」
「それであの泉のお水を飲んだ恩あの人から一番の別嬪さんをだよ」
 その女性をというのだ。
「前の奥さんが亡くなったらね」
「妻に迎える」
「そうですか」
「どうやらあんた達の娘さんは将来凄い美人さんになるから」 
 だからだというのだ。
「攫ってね」
「妻にするのですか」
「私達の娘が大人になったら」
「そのつもりだね、奥さんが水を飲んでから娘さんが生まれたから」
 そうなったからというのだ。
「娘さんも飲んだのと同じだね」
「そんな、娘はまだ赤子ですよ」
 石屯は眉を顰めさせて老婆に言った。
「それに相手はです」
「私達が親として話して」
 玉花も言った。
「決めるもので」
「相手に奪われてだとだね」
「認められません」
「それに私達の娘ですから」
「ちゃんと息子と一緒に育てます」
「そうします」
「そう思うなら助けに行くといいよ」 
 老婆は二人に提案した。
「暫くお店と息子さんは人に任せてね」
「はい、そうします」
「それで行って来ます」
「じゃあね、頑張ってくるんだよ」
 老婆は決意した二人にこう言ってだった。
 夫婦と共に信頼出来る人を探して二人が留守の間店と息子を預けた、そのうえで夫婦は馬を飛ばして紅山に向かってだった。
 泉のところに行くとあの男が出て来て言ってきた。
「娘を取り返しに来たのか」
「はい、そうです」
「娘を返して下さい」
「娘はまだ赤子です」
「私達が育てます」
「そして娘が年頃になってです」
「私達がいいと思った人の妻にします」
 二人で男、楓の木の精に言うのだった。
「そうしますので」
「どうかここはです」
「娘を返してくれませんか」
「私達としても困ります」
「しかしわしも今の妻に先立たれ妻を迎えねばならん」 
 木の精は太く低い声で応えた。
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