第三章
[8]前話
カムイは矢をつがえ引き絞りそうしてだった。
矢を放った、その矢も弓も神聖なものでありそれが放たれるとだった。
矢は先程の胡桃のものよりも遥かに速く飛んでいきすぐにだった。
川下から凄まじい絶叫が起こった、カムイはその絶叫を聞いて言った。
「当たったな」
「その様ですね」
「おそらく一撃でだ」
カムイは供の者に話した。
「男を倒した」
「そうなりましたか」
「屍を確かめる、だがその前にな」
「どうされますか」
「汚れた川を清める、このままでは川の生きもの達が着の毒だ」
鮭をはじめとしてというのだ。
「だからな」
「それで、ですか」
「その様にする」
こう言って川の源の方にもだった。
銀の弓を用い銀の矢を放った、銀の神聖さにカムイの清らかな力を込めてそうして放ってみせてだった。
源に撃ち込んだ、すると。
川は忽ちのうちに元の綺麗さを取り戻した、鮭も他の生きもの達もこのことに安心して元の様に泳ぎだした。
カムイはそれを見届けてから先程の絶叫の方に言った、すると異様にドス黒い肌の色に歪んだ人相の男がだった。
胡桃の弓矢を手に額を撃ち抜かれ恐ろしい形相でこと切れていた、カムイは川の傍に倒れているその男を見て供の者に言った。
「この者がな」
「はい、その男ですね」
「そうだ、この者の罪は重い」
その亡骸を見下ろして語った。
「だから地獄に落とす」
「そうして罰を与えますか」
「そしてだ」
そのうえでというのだ。
「胡桃の弓を矢もだ」
「悪事に用いていた」
「そちらもだ」
「地獄に落としますか」
「そうするこれよりな」
こう言って実際にだった。
カムイは男を弓矢ごと地獄に落とした、そうしてこの辺りの平和を戻し悪者を成敗した。他のカムイ達はこのことによくやったと言った。もはや懲らしめずにそうすべきでありそれをしてよかったとだ。
だがそれでもだ、この時からアイヌの者達の間では胡桃は悪者が用いその者と共に地獄に落ちた不浄の木とされた。その為北海道では胡桃の木はあまりよく思われていない。アイヌのユーカリに伝わる古い話である。
不浄の木 完
2023・3・12
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